「別れよう、大輝」

もう、あなたのこと好きじゃないなんて嘘をついた。

「はっ…」

泣き出しそうな彼に背を向けて、好きでもない男の腕に体を絡ませた。

あの時の彼の顔を忘れたことはない。

あれは、梅雨のくせに憎らしいほど晴れた日だったと記憶している。



それから、二ヶ月。

我が帝光中男子バスケ部は全中二連覇を果たした。

ミンミンゼミがうるさいほど合唱していた、雲一つない空だった。



そして、それから季節が巡って、春…


「んーっ!!っくぅっ」

「そうよ、いきんで!!もう少しよ」

痛みの波が襲ってきて

「ああああっ」

渾身の力で叫んで、いきんだ。

そうしてようやくふぎゃあと、情けない声が聞こえた。

「可愛い女の子ですよ」

看護婦さんが私の額の汗を拭って、小さな塊を手渡した。

真っ赤な顔で、小さな手をめいいっぱいに伸ばして泣いている。

それを見たら、涙がこみ上げて止まらなかった。


あの日、新しい命の芽吹きの季節に相応しく、空は綺麗な青で私の我が子の誕生を祝福した。


そして、季節が一回りして…


胸に一本の薔薇を刺した私は、海常高校の門をくぐった。

短かった髪もずいぶん長くなった。

それを一つに結い上げて、部員獲得のため騒がしい校内を歩く。

そのまま娘を迎えて帰るつもりだったのだけど。




「あれ、苗字さん?」

下駄箱で不意に聞き覚えのある声に呼び止められた。

振り向けば太陽の如く輝く金色の髪の超がつくほどのイケメンモデル、黄瀬涼太がいた。

ああ、神様。

あなたはどうしてこのような事をするのですか?

この日本に何百何千と学校がある中で、どうして私とこの人を同じ学校にしたのでしょう。


そんな波乱を予感させる再会の日。



それも



空が、青い日のことでした