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綺麗な月に、さよならを


高校生パロ


「ダリューン、帰ろうっ!!」

部活終わりの背中にナマエが声をかけると、幼馴染は苦笑を浮かべて彼女に待つよう告げた。

「しょーがないなあー。」

唇を尖らせて頬を膨らませて精一杯の不機嫌アピール。すると彼はわしわしと頭を撫でてた。

「帰りにピザまん奢ってやるから」

「わっ、ちょうどお腹空いてたんだよね。うん、許してあげる!!だから早くしてね」

半ば矛盾したことをいう幼馴染に手を振って一度彼は部室の中に消えた。




「随分幼馴染と仲がいいんだな」

からかい半分のギーヴに煩いと怒鳴るダリューンの声が部室から聞こえてくる。それを聞いてナルサスは呆れながら首を振った。ナルサスもダリューンとナマエの幼馴染みである。それゆえ、幼い頃からナマエがダリューン一筋であることも知っていた。ギーヴに言わせれば彼女は学年一可愛らしい少女らしい。外見ではなく愛嬌があるのだ。ナルサスもその点にはかなり同意できるものがある。

そんな可愛らしい幼馴染みはモテるのにも関わらず、何故か昔から、剣道一筋のダリューン以外の男に見向きもしない。女心と秋の空と言うが、いつ彼女がダリューンを見なくなっても不思議ではない。にもかかわらず、この鈍感な幼馴染みは全くと言っていいほどそれに気がつかないのだ。

よって剣道部副部長にして剣道部の軍師と呼ばれる程頭の切れるとナルサスの策により、ナマエとダリューンは現在二人きりで下校している。部室の鍵を閉める役を買って出たり、ある日はそれをダリューンに押し付けたり。そうして自分と極力一緒に帰らないようにすることで彼らを二人きりにすることで恋のキューピッドとして活躍してきた。

しかし、可愛らしいナマエがいくら頑張ってもあの堅物が想いを告げるそぶりを見せない。ナルサスの目から見れば二人は絶対想い合っているようにしか映らないが、ナマエは

「所詮幼馴染みだから」

と諦めモードである。


いつになったらあの鈍い幼馴染みは気付くのだろうか。
そう思いながらナルサスは来た道を戻り始めた。

ああ、それにしてもそろそろ言い訳もキツくなってきた。何か新しい手を考えねばなるまい。

再び剣道場に戻って竹刀を手に取る。残念ながらあの黒髪の幼馴染みには天賦の才が備わっていて、剣道で勝てたことはない。頭脳戦まで持ち込めればいいのだが、彼の竹刀が速すぎるのだ。ナルサスにしたって周りから見れば恐ろしい剣士なのだが、ダリューンには敵わない。
また、色恋には多少疎くもあるが真面目で顔もいい。そんな幼馴染みだから自分は良いのだと、ナルサスは自分に言い聞かせた。竹刀を片手に剣道場へ足を進める。そこへ足を踏み入れれば見慣れた人影がぽつんと佇んでいた。

「ナマエ」

ナルサスが名前を呼ぶと、彼女はいつもの笑顔で振り返る、と彼は思っていた。予想通り彼女は笑っていた。瞳に涙を浮かべて…

「ナルサス、聞いた?ダリューンの話…」

彼は何も反応できなかった。
その間に、一粒彼女の涙がこぼれた。

「ダリューン、サッカー部のマネージャーと付き合うことにしたんだって。」

正直、ナルサスとて高を括っていた部分があったのは否めない。けれど、まさかあの不器用な幼馴染が自分に何の相談もなく誰かと付き合うことは考えられなかった。

「それは、だれが?」

「アルスラーン会長だよ」

言ったのがギーヴであれば、彼女とて笑って流せたはずだ。しかし、アルスラーンとなってはまた別ものである。普段から真面目な4つ年下の彼の人柄をナルサスはよく知っていた。

「ほら最近火曜日と木曜日は一緒に帰るの断られてたでしょ?彼女と一緒に帰ってるんだってさ。」

知らなかったや、と無理矢理笑う姿に胸が締め付けられた。彼女にこんな顔をさせているやつはのうのうと他の女と付き合っていると思うと、怒りでどうにかなってしまいそうだった。その怒りがただの八つ当たりでしかないことも十二分に分かっている。己が不甲斐ないせいだということもナルサスはよく分かっていた。

「ダリューンは…」

「用事があるから先帰っててってメールした。」

顔が引きつる。涙を堪えようとしているのがよく分かった。

「ごめんね、折角協力してくれてたのに…」

自主練頑張って、と言って彼女は踵を返した。


もう、泣かせたくない。
守れるなら、自分の手で守りたい。


親友への遠慮がなくなった彼はそのまま、自分の意思のままに彼女に手を伸ばし、その華奢な体をそのたくましい腕に閉じ込めた。

「ナルサス?」

「俺は、お前が好きだ。」

するりとずっと押し込めてきた想いが口から出て行った。

「お前が笑うから、ずっと見守るつもりでいた。だが、お前が泣くというのなら、黙って見ているつもりはない。」

優しく彼女の体を自分の方へ向けさせた。恐る恐る顔を上げる彼女の頬に伝う涙を、剣だこのできた指で拭う。

「付き合おう、と言うわけではない。だが、お前の涙を拭ってやるくらい許してはくれないか?」

できればこれから毎日一緒に帰りたい、などと戯けるナルサスの胸に、彼女は飛び込んだ。ほんのりと汗と制汗剤が香る逞しい腕の中で、汚した剣道着はちゃんと洗濯してあげようと彼女は思った。

「ナルサス、ごめっ…あり、がとっ…」

ナルサスは嗚咽を漏らして泣く彼女を優しく抱きしめてやった。























綺麗な月に、さよならを


彼女があの男を思って流す涙が、早く止まればいいとナマエを抱きしめながらナルサスは思った。
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