「はじめの朝早いのが幸いしたね」
「お前は天気予報くらい見てこい」
「いいじゃない、ちゃんと折り畳み傘持ってきたんだから」
唇を尖らせて反論する姿さえ、可愛いと思ってしまうのはなぜだろう、と斎藤は思う。
「あ、ねえはじめ!!寄り道していい?」
そう問うた時にはすでに雨の中を彼女は駆け出していて、斎藤はため息をついて追いかける。雨であろうが、なかろうが彼女の元気さは変わらない。
「はじめっ、見て見て!」
彼女が見つけたのはパワーストーンを売っているお店。水を払い、傘を畳むと彼女はちょっとだけだから、と言って中へ入る。斎藤は店を見て、もう一度ため息をついた。明らかに女性に人気のある店で、男性客などカップルでなければ立ち寄らないだろう。自分と彼女は恋仲という関係ではあるが、やはりこういう女性客をメインに商売をする店に入るのは恥ずかしいのである。だが、彼女から目を離すわけにもいかず、斎藤も彼女にならい、水を払って傘を畳んだ。
木造で作られた店内は淡いクリーム色のライトが上品にパワーストーンを照らしていた。
「いらっしゃいませ」
若い女性店員が斎藤に気付き、声をかけた。それに気がつきつつも、恥ずかしいので、斎藤はさっさと名前の隣に並んだ。
名前はうーん、と言いながら何かとにらめっこをしている。斎藤がその視線を追うと、どうやら守護石やら誕生石やら生まれた日の石やら書かれている表から自分のものを探しているらしい。小さなカードにそれをしっかりメモっている。
「見つかったか?」
一通りそのカードが埋まったところで斎藤が名前に声をかけると、名前は大げさに肩を揺らした。
「もう、驚かせないでよ」
ぷくりと頬が膨れる。
そんな姿はまるでリスのようで、きゅっと胸の奥が苦しくなるのを斎藤は感じた。
「すまない。それで、何かいいものはあったか?」
「ううん、これからお店の中見てみようと思って…」
そう言って名前は近くのパワーストーンに目をやる。
「あっ」
彼女は目に入ったそれに近づき、そっとそれを取り上げた。
「きれい」
その視線の先にあったのは小さなサファイアをあしらったネックレスだった。ちらり、と斎藤が値段を確認したところ、自分達にも買うのに余裕のある額であったから、それが本物であるのかどうかは怪しいところである。ただ、紺色に輝くそれは本物であろうが偽物であろうが、彼女に似合っていた。
「これにする」
彼女はそう言って斎藤を見上げた。
「もう少し見なくて良いのか?」
「うん、いいの。」
だって、この色はじめの色だもん。
そう言って彼女は頬を染めてはにかんだ。
恥ずかしいことも、君となら
君の仕草で羞恥など全部飛んでしまうのだ。
ネックレスをレジへ持って行って、結局名前が押し切られ斎藤が支払いを済ませたのは、また別の話。