「ごめんごめん」
謝る気ないでしょ、とポカポカ自分の胸を叩く彼女を、総司は愛おしそうに見つめた。およそ15cm下にある彼女の目に、きっと彼のそんな表情は映っていない。
「最後の一個だったのに」
頬を膨らませて、精一杯不満を訴えてくる顔は可愛い以外の形容詞が見当たらない。膨らんだ頬を両方ともその長く綺麗な指で押せば、小さな音と共にその頬がへこむ。だが、彼女はまだ不満らしく再び頬を膨らませた。それをまた総司が潰す。3回、4回とそれが続く。そうしながら総司は視線の先に彼女の大好きな物をとらえた。
「あ、名前、ソフトクリームあるよ?」
「え、嘘っ、食べるっ!!」
さっきまでの不機嫌が嘘のよう。
彼女は笑顔で走り出した。
それを見ながら、総司は仕方ないと言ったようにため息を吐くが、これまたとても愛おしそうな視線を彼女に向けるのだ。
勿論、自身の好物に向かって駆けている彼女が気がつく筈がない。素直じゃない総司は恥ずかしがってそんな顔を彼女の前でできずにいた。
それでも、総司としては一向に構わなかった。
「総司ー!!早く早くー!!」
不意に名前が振り返る。
白地に水色のストライプの入ったスカートが風に揺れ、その後ろに小さく見える紅い鳥居との対比が綺麗だった。
麦わら帽子を押さえ、満面の笑みを浮かべる彼女はきっとそんな所も含めて自分を好きでいてくれる気がするから…
「はいはい、今行くよ」
そんな言葉と共に総司が追いつくと、彼女はその大きな手に自らの手を滑り込ませ細く華奢な指を絡めた。少し驚いて総司が見下ろすと、そこにあるのは頬を少し赤くして、笑顔を浮かべた彼女。
「行くよっ!!」
そのまま、夏の炎天下なのに、5cmのヒールも履いているのに彼女は駆け出した。
ああ、暑くなりそうだな。
そう思いながら真夏の日の下、微笑む彼女の体温に酔っていた。
君はいつの間にやらご機嫌に
きっとそれは隣にいる彼が自分のことを愛してることを名前も知っているから
「いただきまーす」
「いただきまーす」
二人揃って冷たいソフトクリームを舐める。
「名前、ほっぺついてるよ?」
そう言って総司が名前のほおを舐めて、また名前の頬が膨らむまで、あと、五秒。