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終わった。
夏は、終わった。
私の、そして海常高校男子バスケ部の夏は…

「ねえ、黄瀬くん」

泣きそうな顔の後輩に声をかけた。
さっきからずっとこの調子。
インハイが終わって、そのままバスで宿舎に戻り、彼の部屋に湿布を届けに行った。
だが、私が部屋についても、いつもなら元気に「ほら、ここ座ってくださいっス!!」って言うのに、今日はそれすらなかった。
そのまま部屋の椅子に腰掛けて、泣きそうな顔で俯いている。
なのに、彼の涙が頬を伝うことはない。

「黄瀬くん」

しゃがんで、彼の目線に目を合わせた。

「力不足でごめんねぇ」

へへっと苦笑して、柔らかくてサラサラな金髪を撫でた。
本当、羨ましい。
てか、自分で言っててどっかのお婆ちゃんみたいだ。

「な、に…言ってんスか…名前先輩はっ…」

「ううん、私に桐皇のボインマネージャー、んーと、桃井さんだっけ?みたいな能力ないからさ」

ずっと、情けなかった。
彼女はチームに大きな貢献をしているのに、私はベンチにただ座って応援しているだけ。
何も、できない。
去年も味わった、この虚無感。
いくら練習の時に働いて、頑張って応援しても、私は何一つ勝利に貢献出来ない。

「けどっ…」

黄瀬くんが反論しかけた時、インターフォンがなった。
黄瀬くんより先に玄関のそばにいた私が扉を開けると、森山がいた。

「あ、森山。黄瀬くんに用事?」

「いや、丁度よかったよ。」

あれから、泣いたんだろう。
目が、赤い。

「OBの人達が来てる」

ああ、と思った。
去年もあった。
去年は可愛がられていた笠松のミスで負けたことから、非難が凄かった。
きっと今年、キセキの世代を獲得したことから優勝も望めると思った人達は沢山いただろう。
ということは、今年も…

駆け出した。

「名前!!」

「名前先輩!?」

二人の制止を無視して一階のロビーへ走る。
速く、速く…

違うのだから。
去年はともかく、今年は…
うちは精一杯やったのだ。

「やっぱりお前はダメだな、笠松」

ロビーについた途端、そんな言葉が聞こえてきた。
去年の一件以来、笠松は負けるたび厳しい非難と視線を浴びせられていた。
予想した通り、今年もだった。

「すみません」

「つか、あれだ。キセキの世代の黄瀬涼太、あいつも使えねーのかよ」

「青峰にも勝てねえしなあ」

「結局今年も準々決勝止りかよ」

投げつけられる、鋭い刃の数々。
やめてほしい。
彼らは、精一杯頑張ったのだ。
全力を尽くした、それだけなのに。
なんで、彼らが咎められねばならないのだ。

「やめて、くださいっ!!」

声を張り上げた。

「全国ベスト8で、何か恥ずかしいことがありますか?バスケ部なんて全国に星の数ほどあるのに、その中の8番で、何がいけないんですか?」

つくづく情けないが私に桐皇マネージャーの桃井さんのような力はない。

「舐めているのか?うちはっ」

けれど…

「知っています、インハイ常連校、海常高校です」

けれど、選手を守ることはできる。

「だから、もし今日の試合に不服があるなら、私にお願いします。」


鋭い言葉の数々から、選手を守る盾にはなれる。
そうして、今日は悔しさに浸らせてあげるのだ。
明日からまた頑張ろうと思えるために。
彼らの心が折れてしまわないように。
次へ、進むために。

「相手チームのマネージャーは、相手のデータを収集し、分析し、成長を予知する能力がありました。」

守るだけじゃない、私が前に進むためにも。

「けれど、私には何もできません。ただ、座って見ていることしかできませんでした。」

出てくるな、出てくるな。
泣くなっ。
どんなに、悔しくても…

私が泣いたら、ダメなんだ。

「だから、今日の一番の敗因はマネージャーの力の差です」

情けないけれど、現実を受け止めなきゃ、明日へ進めない。
泣いても、どうにもならない。
だから、泣くな。


「チームを負けさせてしまって本当に、申し訳ありませんでした。」

頭を下げた。
許されないと、分かっていても。
これが、私の責任の取り方だ。



あれから、少しは成長した。
死に物狂いでバスケを勉強したし、相手チームの分析をしてみたり、テーピングのやり方、マッサージの仕方色々覚えた。
皆を全力で支えるために…
少しでも、

だけど、努力したものが必ず報われるとは限らない。

ウィンターカップ、セミファイナル。

海常は、誠凛に負けた。

そして、三位決定戦。

黄瀬くんの欠場により、私たちは秀徳に負けた。



泣き顔で帰ってくる選手に、精一杯の拍手と笑顔を送ると、笠松が「整列っ!!」と声をかけた。

「今まで俺らの事を支えてきてくれて、俺らを守ってきてくれて、本当に感謝してる。俺らにとってお前は世界一のマネージャーだ」

ちょっと、笠松。
今まで私のことも選手と変わらず怒鳴りつけてきたじゃない。
なのに、なにさ、こんなの。
てか、感謝されるようなことできてたかなんて分からないし、顔とかスタイルで行けば絶対桐皇マネージャーの方が上だし。
なのに、なのに、こんなのズルい。


「今まで、本当にありがとうございました」

「「「「ありがとうございましたっ!!!」」」」

我慢した涙が、ぽろりと一つ零れた。
何よ何よ、お礼言いたいのはこっちの方なのに。

「本当、なにさ。最後だからってっ」

沢山の目がこっちを見てる。
ああ、私。
君たちのその優しい、あったかい目が、大好きだった。

「こちら、こそっ…ありがとうっ、ございましたっ」

涙が溢れて溢れて止まらない。
くそう、最後くらい笑いたかったのに。
笑顔で、言いたかったのに。
制服のブレザーに涙が染み込む。
ああ、クリーニング出さなくちゃなんて思ったけど涙は止まらない。

みんなが私を取り囲んで泣き笑う。


ありがとう、私は皆が大好きだ。
海常高校バスケ部が、大好きだ。



けど、今日でお別れだ。




辿る軌跡に想いを馳せて

支えて、守ってきたものは、大きなあったかい一つの家族みたいなものだった。


入部した頃のまだ若い私達三年の姿が目を閉じたら浮かんだ。
それから、二年になって一つ下の後輩が入ってきて、三年になってキセキの世代、黄瀬くん達二つ下の後輩が入ってきて…
夏のインターハイで、雪辱を誓って、そして…

だけどそんな回想は飛びついてきた金髪の大型犬によって阻まれた。

今は、沢山泣いてもいいかな?

そう笠松たちに目で問いかけると、彼らは優しく笑ってくれた。