「今日、秋田は快晴でしょう」 テレビをつけたら、この時期らしい快晴との予報が出ていた。 そのまま放っておけば、やがて中学時代の3Pの名手である緑頭の変人が毎日欠かさずみているであろうおは朝の占いが始まるだろう。 かなりどうでもいいし、胡散臭いから信用はしていないが、一人暮らしの朝とは寂しいものだから付けっ放しにしておく。 パンをかじって、スクランブルエッグとレタスを平らげ、お弁当をしまい歯磨き粉を歯ブラシにつけたところで占いが始まった。 二位から順々に表示されていく中で自分の星座を探してしまうのは無意識だ。 だが二位から十一位まで表示された中に自分の正座はない。 だがタイミング良く鳴った家の電話に出ている間に一位を聞き逃した。 因みに電話は実家からだった。 この朝のクソ忙しい時に… とりあえず、二言三言会話をしてじゃあ急ぐから、と電話を切った。 「今日の最下位は、ごめんなさい、蟹座のあなた!!」 あ、これは一位だと確信。 そういえばあいつは蟹座だった。 これで秀徳高校男子バスケ部のエース様は今日一日御機嫌斜めかつ何もやろうとはしないだろう。 人のことをバカにしているからだ、へっ、ざまあみろと思いながらテレビを消してエナメルを手にした。 今日から私の所属する陽泉高校男子バスケ部は三泊四日、学校に泊まり込んでの合宿だ。 因みに学校には合宿用の寮もあるので問題ない。 「そーいえば、今日のラッキーアイテムなんだったんだろ」 いってきますの代わりにそんなセリフが玄関に零れ落ちた。 家から学校までは徒歩30分、チャリで15分。 因みに昨日降った雨のせいでチャリは学校にあるから、今日は徒歩だ。 くそう。 ミーンミーンと蝉の大合唱。 朝七時前なのにも関わらず、ジリジリとコンクリートを焼く太陽も恨めしい。 そもそも、秋田は避暑地ではないのか? こんな北にあるのに。 まあ、この前までインターハイでいたあの場所よりはマシか。 団扇で首筋に風を当てながら、耳の中に差し込んだお気に入りの曲の歌詞を口ずさんでみた。 最近流行りの洋楽グループの一曲は夏の暑さをものともしない爽やかさがある。 まあ私の英語力では欠片もその爽やかさが演出されないが… 「Oh!!Two Directionだね」 いきなり声をかけられ、振り向くと背の高い、綺麗な黒髪の男の人が経っていた。 左目は前髪で隠れていて、逆の目の下には泣きぼくろ。 全体的に顔立ちの整った、所謂イケメン。 その人が着ていたのは陽泉高校の制服で、左手には私と同じように大きめのエナメルが握られている。 校章の色が違うから、先輩だ。 「好きなの?」 「はい、とっても。えっと、先輩もですか?」 「うん、俺も好きなんだ」 にっこりと笑って更にTwo Directionの話をし始めた先輩の横顔は、とても格好良かった。 しかも聞いてみればとても趣味が合う。 気がつけば私も夢中になって喋っていた。 「それで、っ!?」 メンバーの話に盛り上がり過ぎて躓いた。 ヤバイ、これは真面目にコンクリとこんにちはだ。 あー、熱いんだろうなあ、なんて思っていたらくんっと体が後ろへ引っ張られた。 「大丈夫かい?」 「は、はいっ」 逞しいけれど綺麗な長い指が私の左手を掴んでいる。 触れられたそこがかあっと熱を持ち、全身に広がっていった。 心臓が痛いほどに存在を主張する。 「気をつけてね。」 クスリと零した微笑みはまた綺麗で格好良くて見惚れてしまう。 「じゃあ、俺は職員室に用があるからここで」 気がつけばそこは学校の前だった。 長いと思った三十分があっという間だ。 職員室のある棟へ向かう彼の背中を、私は微熱に浮かされたような気分で見送る。 心臓の鼓動は今だ収まらない。 ああ、観念しよう。 白状します、恋をしました。 「今日は素敵な人との出会いがあるかも!?恋愛においては急展開があるかも!!ラッキーアイテムはお気に入りの曲!!」 おは朝の占いがそんな事を予言していたのを私は全く知らなかった。 それから部活に行って、定刻からミーティングが始まる。 その時に彼、もとい氷室辰也先輩が紹介された時は本当に運命だと思った。 因みにその後、彼が住んでいるのが私のアパートの一つ上の階だと知った時のおは朝の占いも一位。 しかもラッキーアイテムはまたもそんなものだとは意識せずに持っていたピンク色のシュシュだったというのは別の話。 企画「黄昏」様 第34Q「今日の運勢を占います」に提出 |