ここ神奈川では珍しく、雪が降った。 朝、起きてみるとまだ薄暗かったが一面が真っ白であることは確認された。。 まだ12月の頭だと言うのにこれで雪とは今年はどれだけ寒くなるのだろうと、ふと笠松は思った。 再び眠りへと誘う布団の温もりを強引に引き離しジャージを来て、制服をたたみ、鞄にしまう。 そのまま家族に挨拶をし、朝食を食べ、家を出た。 今日の朝練は試合も近くなって来たためか自主練となっており、来るか来ないかは各自の判断に任せられている。 だが、習慣となっている朝練をしないと調子が狂いそうだと思った笠松はいつもより早い時間に家を出た。 普段はチャリで学校へと向かうが、今日はチャリは使えず、態々一駅電車に乗らねばならない。 駅に着き、来た電車に乗り、一駅揺られて学校の最寄り駅に着いて歩き出す。 雪の積もった道は歩きづらい上に、靴の中に溶けた雪が染み込んだ。 足先の体温が奪われていくのを感じながら、靴下の換えを持ってきたことに心底感謝した。 いつもより早く彼が学校に着くと、部室と体育館は既に開いていた。 いつもは笠松が一番に来て開けるのだが、今日は誰か先客が居るようだ。 バッシュを取り出し、誰かがつけて置いてくれたであろうストーブのそばに濡れた靴下を置く。 そのまま体育館へ向かうと、聞き慣れたバウンド音が聞こえてきた。 「おはよう」 その声と共に体育館に入った笠松の目に飛び込んだのは、制服を着た笠松より二つ年下のマネージャー、苗字名前がスリーポイントを打つ姿だった。 予想外の姿に、笠松の動きが止まる。 見られた彼女はハッと動きを止めてから、 「あっ、えっと、その、すみませんっ」 とガバッと頭を下げた。 「あのっ、そんな夢中になるつもりはなくって、ボール磨いてたら、そのっ、やりたいなあって思って、やってたら、そのっ…ごめんさないっ」 ペコペコ頭を下げる彼女はぎゅっと目を瞑っていた。 「いや、まだ誰も来てないから全然構わねえけど、お前どうしてこんな早いんだ?」 笠松が尋ねると、彼女はえっとえっと、とワタワタしながら 「ボール磨いたり、部室の掃除したりしようと思って…。今までは朝練のない日にやっていたんですけど、試合近くなって、データのまとめがあるので…」 と答えた。 彼女が働き者なのは笠松も知っていた。 かつて、帝光中で女子バスケ部に所属していたにも関わらず、高校ではマネージャーをしている彼女はバスケをよく理解しており、且つとてもチームに献身的だった。 例えば、同じ中学出身でモデルをやっている黄瀬のことが苦手(黄瀬は友達だと思っている)だが、いつも他のチームメイトと分け隔てなく接している。 そのチームへの献身と愛らしさからチームからはとても大事にされているただ一人の海常高校男子バスケ部マネージャーだ。 そんな彼女の頑張りを笠松もよく知っていた。 だが、そんな事は初耳だったし知らなかった。 確かに言われて見れば、男だけが使っている部室にしては綺麗すぎるほど整えられているし、ボールが汚れていたことも殆どない。 それが当たり前になっていて、気がつかなかったのだ。 こういうところまで、彼女はチームに献身的だし、決してそれをアピールしたりすることはない。 それが皆から好かれる理由だろう。 けれど、誰も知らなかった彼女のしていることを自分だけが知れた事に何故か笠松は喜びを覚えた。 「ありがとうな」 軽く彼女の頭を撫でると、俯いていた彼女がハッと顔を上げた。 「そんな、チームのために私全然貢献できてなくて、ほんと、」 「んなことねえよ」 笠松はウィンドブレーカーを脱ぎ、彼女が手にしていたボールを拾った。 彼女に触れたのは、初めてだ。 「けど、もしそう思ってるなら俺の練習に付き合え」 そう言うと彼女は二、三度目をパチパチさせた後、ふにゃりと目を歪めて、はい、と返事をした。 朝の体育館にバウンド音とバッシュのスキール音が響く。 雪のように白い彼女の肌がほんのりと上気させ、荒い息を吐きながら懸命にドリブルをする。 その背中を追いながら、笠松はなんとも言えない幸福感に浸っていた。 白い兎をおいかけて 余談だが、それをこっそり覗いていた森山、早川らの後ろに黄瀬が来たことで覗きがばれてしまい、全員が笠松に説教をくらったとか。 ーーーーーーーー 企画「panier garcon」様に提出 |