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この時期には珍しく、目が覚めて見れば雲一つない晴天だった。

彼の目はひょっとして数ヶ月先の天気まで見通せるのではないかと、私は思った。

それを本人に言うと、高尾くん天才だから、といつもの調子で返されたのでちょっと笑った。

高校時代から全然変わらない彼…

あの頃はこんな事になるなんてこれっぽっちも考えてなかった。

だってあの頃、私の隣にいたのはこの人じゃなかったから…


ジューンブライドとは、元々欧米の言葉だ。

まあ、まんま英語なので誰でもその言葉が英語圏から伝わったものだと思うだろう。

直訳すれば、6月の花嫁。

これには諸説があると、昔聞いた。

6月の月名である「JUNE」と、ローマ神話で結婚をつかさどる女神である「JUNO」に由来していて、6月は結婚や女性の権利を守護する「JUNO」の月だからとか

また欧米ではこの時期一年でもっとも雨が少なく過ごしやすい時期だからとか


様々あるが、この月に結婚すれば生涯幸せな結婚生活が送れるという。

その話を私がすると「でも日本じゃ梅雨だからなあ」と言われてしまった。

どうせなら海外でも行くか?と首を傾げられたが、流石に其処まではと首を振った。

そうすると彼は、じゃあこの日にしよーぜ、と私の持っていたカレンダーの日付を指差した。

あれから数ヶ月、本当に大丈夫かと不安だったが一週間前から天気予報では晴れの予報だった。

そして、その予報は一度も覆ることがなく今日に至る。


「よろしいですよ」

柔らかなスタイリストさんの声に目を開ければ普段の冴えない私とは別人で

「ほあぁ」

と思わず感嘆の吐息が漏れた。

「とても綺麗です」

鏡越しにスタイリストさんが笑顔で言った。

「ありがとうございます」

応えると同時にタイミング良くノックの音。

「どうぞ」

返事をすると、入ってきたのはこれから私の旦那様になるその人。

私のドレスと同じオフホワイトのフロックコートの下にはシルバーのネクタイとグレーのカマーバンド。

左の胸元には白い花があしらわれている。

それは恐らく私のドレスの胸元にもある白い薔薇。

「うわっ…マジかよ」

私から顔を背けて白い手袋で覆われた手で口元を覆うその仕草すら…

「かっこいい…」

思わず子供のように零れた本音に、スタイリストさんが微笑んだ。

それが恥ずかしくて俯く。

「では、ごゆっくり」

彼女が一礼して出て行くと、二人きりになって…

「名前」

呼ばれて顔を上げると、私の大好きな優しい笑顔を浮かべた和成がいた。

「メッチャ綺麗」

そう言って私の手をとって口付ける。

「本当は唇がいいけど、それは本番な」

いたずらっぽく微笑む彼が、愛おしくて胸がいっぱいになる。

「そーそ、さっき真ちゃんが来たんだけどさ、名前にってこれ」

渡されたのは一通の封筒。

開けてみれば、

「結婚おめでとう。高尾をよろしく頼む」

とだけ書かれていて和成と顔を見合わせて笑った。

あの頃、私は真太郎のお嫁さんになると思ってたんだけどなぁ、と零せば、俺ももう勝ち目ないと思ってた、と和成は笑った。


和成が出て行くと私は再び手紙を開いた。

別れたものの、真太郎とは今でも普通に仲がいい。

けれど、わざわざこんな事をしてくるあたり真太郎らしかった。

きっと言葉で言うのが恥ずかしかったのだろう。

「ばーか」

零して目を瞑った。

真太郎、私の夢は叶ったよ。

あなたと別れた時私は本当に辛くて泣いたけれど…

それでも

「私、三人でずーっと仲良く幸せでいたい」


親友の真太郎とこれから旦那様になる和成と、私。

三人で見つけた最高の幸せ。

今、真太郎の隣にいる人は私ではないけれど…

私の隣にいる人も、真太郎じゃないけれど…

それでも、今幸せだから。


あの日の私の夢は叶ったのだと思う。


「名前」

ノックと共に私は青い薔薇のあしらわれた便箋を置いた。

青い薔薇なんて洒落たことするよね、と心の中で一人ごちて、入ってきた父の手を取る。

「いこうか」

「うん」

ふと、今日、こんな日を迎えられたことが凄い奇跡だと思えて鼻の奥がツンとした。



青い薔薇
花言葉は奇跡、夢かなう


そして、神の祝福。



客席の真太郎は、優しく微笑んでくれた。





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余談なのですが、白の薔薇を途中で登場させたのは花言葉が「尊敬」「私はあなたにふさわしい」だったので、高尾くんからヒロインちゃんと緑間くんへのそれぞれの思いを表したつもりです。

企画「Earth」様に提出