医務室にはかいへいとナース一人が言葉と視線を交わさず、ただ二人だけが部屋にいた。


先程までカチャカチャとナースが器具を触る音と布が擦れる音しかしなかったが、外がうるさい。

遠くでドタバタと足音がしたり金属音がしたり、時々銃の発砲音が聞こえる。敵襲でも来てしまったのだろうか。
白髭海賊団に喧嘩を売るなど、馬鹿がやることだと誰かが言っていたのをふと思い出した。

この船が沈む訳ではないし私は関係ないので寝てしまおうと目を閉じる。



「こっちだ!」


遠くの、声と足音がこちらに近付いてきていた。人数は5人。

白ひげの、仲間じゃないと思った。その足音はどんどんこっちへ向かってくる。
目を開けてナースさんを見ると日常的なのか気付いてないのか、まったく隠れようとしていない。



「ナースさん、かくれ__」


声をかけながら上体を何とか起こそうとすると同時に、ドアが開いた。ナースが短い悲鳴を上げた。


「なんだ、これっぽっちしかいねェのか」
「いンや、ナース一人の死体があればいいって船長が言ってたんだ…」

「!」


どんどんナースに近付いて行きながらする会話にまずい、と思った。
ナースは腰が抜けてしまったのか、動けずに捕まってしまった。一人がナースの首にゆっくりと、ナイフをもっていく。


「まっ、て!その人に、手を、出さないでください…!」


ガシャガシャと、手錠が行く手を阻む。

ああ、もう!
近くにある物を適当に全力で投げるが、利き手じゃないせいかコントロールすらままならない。男5人は馬鹿にするかのように笑っている。


「ぁ、ひっ…」


ナースはカタカタ震え、涙を零している。
こんな、馬鹿な海賊がいるから。こんなやつらがいるから誤解される海賊もいるんだ。ずっと。これからも。

「こりゃァ、白ひげも怒るだろうなァ…!」

ニヤニヤと嘲笑う男の、ナイフが少しずつナースの首に押し当てられていく。

投げるものが無くなり肩で息をするかいへいにもう一人の男が近づいていく。


「ハハハッ!無力ってのは悲しいなァ?しっかり見といてやれよ…最期をなァ」

「___、」




やめて。もう、やめろ。

ナースの首にナイフが、少しずつくい込んでいく。
ツツ…と赤いものが、白い肌の上に一筋できていく。
やり場のない苛立ちに、頭の芯がチリチリと音を立て始めた。




「__…ぃ…」

「ア?」



どくどくどく、全身の血が、うるさい。


神経が張り裂けそうだ。
激しい波が全身に広がり、荒々しいものが、疾風のように心を掻き乱す。鎖で繋がれた手首の痛みは気になどならない。



ナースの血がぽたり落ちて、弾ける。









「…いい加減にしてッ!!!!」





空気が、揺れた。



焔のいしを砕け
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