そろそろ気が飛んでしまいたい、そう思いながら襲いくる痛みに耐えてるとどこからかカチャリと、金属音がした。銃の金属音だ。
「あっ…イゾウ隊長…」
「た、隊長…!」
「よォ。随分楽しんでるなァ?」
「……」
暴力が収まる。声が聞こえた方をに視線を向ける。少しボヤける視界に映ったのは、ドアに体重を預けている人。声的には多分、男。
「そいつがエースが見つけたっていう海兵か?」
「は、はい。コイツです」
「んで?お前らは俺にも秘密で楽しみを独り占めか?」
「す、すンません!」
サッと目の前から男二人が隅に移動した。
隊長と呼ばれた人は銃を構えた。それは真っ直ぐにこちらへ向いている。
やっと視界がクリアになってよく見えるのは銃口。そして銃を構える人は美しかった。
男であっているのか不安になる。胸板がしっかりしてるので男のはずだけど。銃がよく似合うと思った。
剣ではなく、銃なら楽そうだな。でもやっぱり、こわい。
「…なんてな」
「?」
こちらへ向いていた銃口はスッと水平に移動し、隅へ避けていた男二人へ向いた。…これは、どういう、?
「イ、イゾウたい、」
「…出てけ屑。今すぐオヤジに謝ってこい」
「ヒッ…!」
顔を青ざめ、素早く男二人は出て行った。
出て行ったドアの方、銃をもった人の方を見つめた。
その人はため息をついてからこちらへ向かってくる。
「悪かったな」
「…いえ、その、」
「安心しろ。俺はお前みたいな女に暴力なんてバカなことしねェよ」
どうやら殺されはしないらしい。
その人は銃を懐に仕舞い、余っているベットの上に座って笑った。
「最近海軍とぶつかって家族失ったばっかで荒れてんだ。謝って済むことじゃねェが…」
「だ、大丈夫ですから」
「ありがとな。ナースはこないのか?」
寝そべりながら話すのはなんだかなぁ、と思いゆっくり上半身だけを起こすと問いかけられた。
「私が来ないでって言いま」
「嘘つくなよ」
「……えっ、いや、嘘は」
「ククッ…下手くそ。バレバレだ」
「……」
言い終わる前にスパッと言われてしまい、口籠ってしまった。多分別に、あながち嘘でもないのに。
そういえば、こんなに誰かと話すなんてエースさん以来だ。
「今までお前のこと試してたんだ。無意味だったけどな」
「試す…?」
「あァ、俺ら隊長でもよく知らねェんだ。オヤジはいいヤツだからくれぐれも殺すな。んでほっとけって言っててな。だから本当にいいヤツなのかって様子見ってことでほっといてたら、こうなっちまって…」
「あー…でも、こうなるのが普通ですから」
はっきりいってまだ頭が完全に理解はしていなかった。
「…今まで気づいてやれなくて悪い。これからは安心しろ。手錠は外してやれねェが、隊長の権限最大に使って守ってやるさ」
こうやってな、と手を銃の形にして笑ってみせた隊長さん。初めて会うのに、しかも敵だというのにどうして守ってくれると言ってくれるのだろう。
今までと、違った。嬉しいようで、慣れなくて、疑問があふれた。
「…なぜ、貴方は」
「ん?」
「優しく、してくれるんですか…?」
キョトンとなるも、直ぐにまたニヤリと笑った。
「それはお前がよく知ってそうな気がするけどな。ずっとそんな顔してるぞ」
「どういう…」
「じゃあな、用事があンだ」
そういと、さっさとドアへ向かって行く。それを止めずにただ見つめるだけ。なんだか悔しかった。それと少しの寂しさ。
ふと、その男は振り返った。
「俺は16番隊隊長のイゾウだ。何かあれば叫べ」
夜をくるむ温度
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