その幻想をぶっ壊せ!
その日、俺は初めて女の子と夏祭りに出掛けた───
その幻想をぶっ壊せ!
「ほら 座りなよ。鼻緒、靴擦れしてんだろ?」
「え? 大丈夫だよ?
ポワント…… トウシューズに比べれば全然痛くないよ?
でもまぁいいや キズバンだけ貼っておくね」
そう彼女は赤い巾着籠をごそごそと捜索している
と 同時に下駄からその白魚の様な(少なくとも俺はそう期待した)足を抜いた
白魚な筈の足は 親指と小指の付け根と 幾つかの指の関節部分が痣が如く 薄く赤茶色
爪も綺麗に揃った桜色 などではなく 人差し指に至っては怪我でもしたのか中途半端に生えかけだった
そのそれでも男子とは違う細い足は何故か艶かしく見えた
たぶん俺が思春期真っ盛りだからろうけど
よく見るとじんわりと血色に染まっていた指の股
そこまで酷いとは思わなかった
少し歩き辛そうで ゆっくり気味になっていたから一か八か声をかけたのに……
そんなに血が出るまで我慢しなくてもいいのに………
"大丈夫?" と聞くと
"ヤバい大丈夫じゃないわ 血染めの鼻緒だわ ママの下駄じゃなくて良かった……"
何かが間違っている様な気がしながらも 記憶の限り初めて近くで見る女子の足を別に変質的でない意味でじっくり観察する
と 実は事前に予防してあったことが分かった
肌色の、ごく一般的な絆創膏がぐしゃりとずれて 既に潰れた水膨れの丸い皮と一緒になっている
剥き出しの真皮が赤く 赤く 擦れて血液と透明な何かが滲み出ていた
時間にして4秒程──
砂埃を被った下駄を序でにはらった彼女が顔を上げたので 不自然にならない速度で目を逸らす
彼女は絆創膏を二枚、ぺたり と左足の指の股に貼った
更によく捻挫等の時に使うだろう白い布テープを剥がれない様に巻く
その手つきは丁寧かつ素早く、確かに慣れている様だ
それにしても事前の準備がいい。普通 布テープ何て持ち歩くものだろうか?
さらりとしたショートな髪が、耳をを滑って前に落ちた
鬱陶しそうに後ろにやった毛先からは女の子の匂いがすることもなく 屋台の煙のかほりがふわりと漂った気がした
これが この日の出来事が小説ならば───
"鼻緒で靴擦れ" のシチュエーションは、"おんぶ"や "さっと絆創膏を差し出す" なんて事になったのだろう
現に彼もそう願ったし、シミレーションした
"これでよし!"
ハサミでテープをカットして彼女はそう呟いた
彼女の表情はその紺の浴衣に描かれた何かの花の如く笑顔だ
現実ってなんだろな……… と一人黄昏る彼を友人が夢見過ぎだ と笑い飛ばすまで後少し──