「はあ…。」
「溜め息吐くと幸せ逃げるらしいぞ。」
「もう全部逃げてすっからかんな気がする。」
「またダメだったのか?」
「………。」
「まあ元気出せよ。ラス1のコロッケやるから。」
「…じゃいただきます。…んまい。」
「ちょうど20%引きのシール貼られてよ、ラッキーだったぜ。」
「そうか…。俺の運はそっちに逃げてたのか。まあうまかったからいいけど。」
「今日はどこまで行ってきたんだ?」
「んと、E市とG市。飲食店は一通り回ったんだけど…。」
「それでもダメなのか?」
「やっぱりパスポートとか身分証ないと門前払い…。」
「あー…世知辛いな。」
「はあ…。もういっそ自営業でもしようかな、前みたいに。」
「自営業って何やってたんだ?」
「便利屋。」
「便利屋?何でも屋みたいなもんか?」
「うん。表向きはね。依頼は電話で請け負うんだけど、本当のターゲットは合い言葉付きの依頼でさ。」
「おお、裏仕事でもやってたのか?」「まあね。悪魔っていう怪人みたいな危険生物を狩る仕事。」
「へぇーそんなのがいんのか。楽しそうだな。」
「修行にもなるし報酬も貰えるしでなかなかいい仕事だったよ。」
「で、それを怪人相手にこの辺でやろうってのか?」
「そう思ったんだけどさ…。」
「なんだよ。」
「最強のヒーローがここにいるから別に需要ないよなって。」
「…それ、俺のことか?」
「他に誰がいるんだよ。無償で怪人を確実に倒すヒーローがいるのに、金払ってまで便利屋に頼む奴はいないだろ?」
「まあ、そうだな…。」
「それに、サイタマはさ、金とか見返りとか関係なくヒーローとしての誇りを持って怪人倒してる訳じゃん。そこで報酬目当てに怪人狩りなんて野暮以外の何物でもないだろ。」
「お…おう。」
「俺の前いた所にはヒーローなんていなかったからよく分かんないけど、サイタマ見てるとヒーローってかっこいいなーって思うよ。」
「……。」
「すごいよな。俺も悪魔は狩るけど、正義感でっていうよりも生活と自分の修行のためって感じだし。やっぱヒーローって違うな。」
「……。」
「サイタマ?どしたの、さっきから突っ伏して。」
「…うっせ!なんでもねえよ。」
「そうなの?ああ、そんでな。便利屋をするなら怪人狩りじゃなくてもっと地味なことでいいかなってこと。」
「…地味なことって?」
「雑用みたいな。例えば庭の手入れとか犬の散歩とか、物の修理とか。」
「あー、何でも屋がやってそうな仕事か。」
「そうそう。それなら需要はありそうだろ。」
「でもどうせ自営業ってんなら定食屋でもやった方が稼げるんじゃね。お前異常に料理上手いじゃん。」
「ああ、前は便利屋と厨房勤めの二足のわらじだったからな。あのくらい当然だよ。」
「それ忙しくね?よく身が持ったな。」
「便利屋は俺の師匠とその弟が基本仕事しててさ。俺は暇な時仕事回してもらう感じだったからそこまで忙しくはなかったよ。」
「へぇー、お前ってやっぱ働き者だな。」
「生活かかってるしなー。でも便利屋にしろ定食屋にしろ、それは最終手段だな。」
「なんで?」
「定食屋は土地も設備も買わなきゃいけないし許可もいるだろ。便利屋は営業許可取らずにこっそり運営するにしても、お客さんの信頼得て仕事が軌道に乗るまで時間かかるし。」
「で、結局金を稼ぐなら雇われる方が確実だってことか。」
「……なかなかうまくいかないんだけどさ…。くそ〜明日こそは…。」
「それ昨日も言ってたぞ。」
「……うう…ごめん…。なるべく早く自立しますから…。これ以上サイタマに迷惑は…。」
「はは。そこまで気負うことねえよ。これでお前がへらへら遊んでたらふざけんなだけど頑張ってんもんな、トモキ。」
「…でも、頑張ってもやっぱ結果がついてこないと…。」
「だからんな深刻になるなって。お前が一生懸命なのは俺が知ってっから、自信持てよ。」
「……ありがと。やっぱサイタマいい奴だな…。」
「お、おう。まあ当然だな、ヒーローだし。」
「ヒーローかあ…。」
「あ、10時過ぎてるじゃん。もう部屋戻るか?明日早いんだろ。」
「…なんてーかさ。」
「ん。」
「やっぱ、サイタマと友達になれてよかったわ。」
「…なんだよ。いい金蔓って意味か?」
「お前みたいなかっけーヒーローが友達で誇らしいって話!」
「…は?」
「じゃあなーご馳走さん!また明日な、サイタマ。」
「……この直球野郎め。」





(不覚にも嬉しかったのはここだけの話。)



直球野郎の仕事話
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