予想外、人生は沼あり谷あり
『ごほ、ごほッ…』
あー喉いてっ!くっそーやっぱり白蘭様主催の寒中流しそうめん大会なんかに参加するんじゃなかった!冬だよ今!流しそうめんで得られる涼やかさをまるごと否定する季節だよ!
それにしても58階のビルの屋上に忍び込んでまでそうめん流して風邪ひく私って…。昨日ハイチュウ食べすぎて口がかゆくなったことも関係するだろうけど。
とにかくこの病弱な体が嫌になる。今日も寝たきりで最悪だ。いつか何らかの形でビッグになるという私の夢はこの体質によって潰えようとしている。定年までにビッグになれなかったらどうしよう。私の老後が……
『へくひゅんっ!』
とりあえず服を着替えよう。昨日急に倒れてから汗いっぱいかいたしね。
ガチャッ
白「チョリーッス!」
『ぎゃあああ!!?白蘭様!?突然入ってこないで下さいよ!』
白「おもてを上げぃ!」
『上げてるよ!?』
白「寅チャン仕事だよ仕事!」
『仕事?』
白「うん、ちょっとそこまでスパイ行ってきてほしいんだ」
『へ?…ススススパイ!?びっくりした急に!んな豆腐買いに行くみたいなノリで命じることだろうか!?』
白「豆腐?何それ僕たまご豆腐にしないと食べないからね」
『私の技術の限界は冷やっこです。ていうかスパイなんて行けませんよ』
白「なんで?」
『昨日言ったじゃないですか!一週間絶対安静って。書類処理が限界です』
白「書類処理なんてたわけたことやってる暇ないんだよ。てか何かと君の限界点低すぎでしょ!もっと熱くなれよ!!」
『善処します』
白「とにかく今早急にスパイが必要なの!」
『何か非常事態でも?』
白「僕の思いつき」
『付き合ってられません』
白「そんな寂しいこと言わないで。ていうかソレただの風邪なんでしょ。風邪くらいで天下の白蘭様に逆らうつもり?減給!」
『ちょおおおお!!?逆らうも何も白蘭様が流しそうめん強要するからでしょ!?』
白「あぁこないだの流しそうめんね、あれ楽しかったよねー今度またやろう」
『やだよ!あんたたまにそうめんに紛れて輪ゴム流すでしょ!』
白「まぁそれもこれも仕事が終わってからのお楽しみだね」
『だから行けませんって』
白「頼むよ、これは寅チャンにしか出来ない仕事なんだから」
『え……!私ったらいつの間にか多大なる信頼を置かれていたなんて!こりゃ昇進も近いねキタコレ!』
白「昇進は未定だけど寅チャンはすごいよ!何百人もいるミルフィオーレの中から選ばれたんだからね!」
『ですよね!日々繰り返される白蘭様の嫌がらせに耐えてきてよかった!私すごい!偉い!!』
白「あみだくじだけどね!」
『あみだくじなの!?』
白「その通り!」
『私への信頼関係ないじゃないですか!?』
白「寅チャンいじくってると面白いからさ。持ち上げといて落とした時のリアクションは格別だよ!そういう点に関しては全面的に信頼をおいてる」
『嬉しくない…!』
白「とにかく寅チャンがなんて抗議しようと僕の決定は覆りません。僕は偉いからね」
『そんな!天は人の上に人を作らずというあの言葉は嘘だったんですか!!教えて神よ!!』
白「どこの宗教?ちなみに断ったらクビだからね」
『行きます』
白「あ、僕寅チャンの扱い方分かってきたかも」
『で、どこにスパイに行けばいいんでしょうか?』
白「ボンゴレファミリー」
『ボンゴレ!?ちょ、ボンゴレって今勢力グングン上げてるノリに乗ったファミリーでしょう!?そんな場所に私を放り込む気ですか!』
白「ちょっと行ってササーッと重要書類盗んで帰ってくればいいからさ!途中の道でチェリーパイ買ってても全然間に合うよ」
『無理です嫌です!話聞いてるだけで胃が破裂しそうです白蘭様!!』
白「ははっ」
『笑うところ!?』
白「そんな重く考えないで。ね、遠足行く気分で行ってくればいいから」
『そんな気で行ったら確実に死にますよ。あのやっぱり他の人に…』
白「はいコレ非常食のマシマロ。怪しい人がいたらところ構わずマシマロクオリティ発揮していいからね。あとキジとか仲間にしたり」
『マシュマロにそんな効能ありませんが』
白「マシマロには秘められた能力が眠ってんだよお馬鹿。てかマシュマロじゃなくてマシマロ、まったくネイティブの発音ができない奴はこれだから」
『なんだか無性にはらわたが煮えくり返ってきた』
白「門限は5時だから!」
『早!?白蘭様私の年はき違えてません!?』
白「親にとったら子どもはいくつになっても子どもなんだよ?」
『あんたと私に血の繋がりは一っっっっ切ございません!!!!』
白「君の本気を初めて目の当たりにしたよ」
そうして無理矢理外まで引っ張っていかれた。やばい。白蘭様の目がマジだ。もっと他にマジになるべき場面があるだろうに。渡されたのは地方キャラクターが描かれたリュックサック。なめてんのか。この微妙にかわいくない具合が余計腹立たしい。
白「荷物は全部リュックの中に入ってるからね!」
こんなときだけ用意のいい上司に苛立ちを覚える。会議に必要な書類数枚に判子を押すだけの作業には4日かかるくせに。
『あの…白蘭様、本当に私じゃないといけないんですか?胃から尋常でない音出てるんですけど病気ですよ私。聞こえるでしょコレ』
白「そんな事よりハンカチとティッシュ持った?ビニール袋とかも。アレ地味に役立つからねマジで。あとおやつは500円までだから」
『本気で遠足に行かせる気!?』
白「グチグチ言ってないでさっさと行ってきてよね。油断しちゃ駄目だよ、スパイは家に帰ってくるまでがスパイだから」
『分かりましたよ。白蘭様は私の話なんて2%も聞いてないことがね』