予想外、人生は沼あり谷あり2


『どうしよう……ボンゴレの屋敷の前まで来たはいいんだけどどうやって侵入すれば………!』

考えてみれば私スパイ的な教育を全くと言えるほど受けてないよ。大体重要書類を盗んでこいって、具体的に何を盗ってくればいいのさ。

でもそろそろ行動を開始しないとヤバい頃合いだ。かれこれ30分は門の前でウロウロしてるし。いい加減不審者だよ。
だっていざ行こうとするとお腹が痛むんだもん!誰かビオフェルミンを……乳酸菌のお薬を……!


山「どうかしたのか?」

『ひっ』

ヤベッ見つかった!誰だこの爽やかな男は!笑顔眩しいんですけど!最近白蘭様の胡散臭い笑顔しか見てなかったから余計眩しい!

山「気分でも悪いのか?」

え!?この人もしや私を心配している!?気遣っている!?私がさっきまで話していた白い上司はこっちがいくら不調を訴えても美しいまでにシカトしていたというのに!?あぁ…この世にはまだこんなにも親切な人間が現存しているのね。優しい人間なんて歴史上の存在だと思ってた。地球もまだまだ捨てたもんじゃない!ありがとう神よ!

『大丈夫です今治りました!』

山「えっ凄ぇ。にしてもお前なんでこんなところに……?」

ゲッ、すっごい怪しまれてる。そりゃそうだよ、こんな人気のない場所で体調を崩してる美少女なんて私くらいだよ。

『えーっと……』

山「あ、もしかしてお前面接に来たのか?」

『へ?』

山「今日確か使用人の面接を行うとか言ってたしな。そうだろ!」
この人親切だけど思い込みが少々激しいな。減点。なんか知らないけどここは適当に合わせとこう。

『あ、えっと………ハイ』

山「やっぱしな!んじゃ遠慮しねーで入れよ!もう始まっちまうぞ?」

『え、いや、ちょ……っ』





なんかよく分かんないけどとりあえず侵入は成功だ!自分の才能に惚れ惚れする!怖い!才能が怖い!


山「んじゃここが面接会場だからな、時間が来るまで他の面接者たちと部屋の前で待っとけ!」

『はい!』

素性も知れない女を中に入れるなんてこの人きっと下っ端だな。この人がどっかへ行ったら適当な部屋に入って書類っぽい物を盗んで帰ろう。スパイって意外と簡単だな。いっそのことスパイの道を極めて出世しようかな。


山「俺も面接官だから中で待ってるな!」

『……え!?』

面接官なのかよこの人!じゃあ面接の時私がいなかったら不審に思われる………!

いやいやいや、面接に落ちれば問題ないんだ!書類を盗んで面接を適当に落ちてくれば任務は完了……

「では只今より面接を始めまーす」

山「もう時間みてーだな!俺も早く席つかねーと。んじゃな!」

『………』

…ま、面接の後でも全然問題ないさ。焦らない、悪ぶれない、ボーイズ・ビー・アンビシャス。このスパイ三大法則「あわび」を心掛けていれば絶対大丈夫よ!



「面接は5人ずつ順番に行います。まず5名の方、お入り下さい」

私は5番目に面接会場の中へ入る。面接官はさっき案内してくれた人の他、つり目の人と髪の毛がサイヤ人みたいな人の二人がいた。

綱「それじゃ、早速聞くけど…ここの面接に来た理由は?一番の人から」

「はい。昔から御ファミリーを尊敬しており、一生お仕えしたいと思ってきたからです」

「御ファミリーに昔から憧れ、ずっとお役に立ちたいと思っていたからです。飾ってある尊影を拝見したとき、更に意欲が沸きました」

皆すごいな……。真面目だよ。働く女だよ。尊影の意味がいまいち分からない私とはわけが違う。
それにしても昔から目指してた人とか結構いるんだな。私なんか白蘭様の今朝の思い付きで寄越された上に面接が決まったのつい10分前だよ。備えるべき準備をまるでしてないよ。

とにかく落ちなきゃいけないんだから適当に答えておこう!


雲「次、5番の人」

『あ、はい!えーと……メイド服を着てみたかったからです!』

「………」

「………」

「………」

『ぶっ』


ちょっとちょっとなんですかこの空気!おも!さむ!私が作ったんだけども!
隣の人もそんな気の毒そうにチラチラ見るんじゃねェェ!別にウケ狙いじゃないんだから!ある意味真剣なんだから!


山「…ははっ、お前面白いなー!」

綱「そんな物どこでも着れるでしょ」

雲「馬鹿なのかな。馬鹿なんだね。可哀相この子」

『……すいません』


こうして顔から火が出るような面接は始まった。それからというもの私に質問がまわってくる度に静けさが走る会場。いま芸人の気持ちを嫌というほど噛みしめている。もう芸人を馬鹿にするのやめよう。敬おう。


綱「じゃあ次最後ね。ここでは料理が出来ることが絶対条件なんだけど、何か得意料理はある?一番から」

「父がイタリアンレストランのシェフなので、イタリアンは昔から教わってきました」

すげー!そんな都合よくお父さんがシェフやってるなんてずるいよ!私のお父さんなんかマッチ棒を延々と作り続ける仕事だよ!使えねーな!

綱「じゃあ次5番………」

うぉおおお!物凄く怪しいものを見る目で私を見てる!半笑いだよ!今までの質問でつり目の人に合計26回「馬鹿」と罵られた私だけど今回ぐらいはそろそろ真面目に答えないと……!

『はい!得意料理はハンバーグとー、』

雲「!…君ハンバーグ得意なの」

『あ、はい!子供のころ好きだったんで作り方は昔から知ってて……』

雲「いいよねハンバーグ。外カリ中フワッて感じでさ。そこにハンバーグソースかけて従来通りの味を楽しんでもいいし、個人的にはポン酢であっさり頂いても「雲雀さん

雲「あ…ゴメン」

綱「5番続けて」

『は、はい。(なんだろうあの人。ハンバーグ研究家とかそういった感じの人かな)あとお寿司も握れます』

山「寿司も出来んのか!?」

『はい!(白蘭様が回転寿司したいって言い出したとき数百皿握らされたからね)』

綱「質問は以上ね。山本と雲雀さん、他に何か言いたいことある?」

雲「ハンバーグさぁ、」

綱「やっぱいいです」

山「最後に履歴書を提出してってくれなー」

『あっ私履歴書ありません』

綱「じゃあ残ってコレに書いてって」

『はーい…(住所とか電話番号は適当なの書いておこう)』

雲「にしても面接に履歴書かいてこないなんてとんでもない度胸の持ち主だね。社会なめてる?こんな子が社会人なんてイタリア終了のお知らせだね」

『これが噂の圧迫面接…!?』

綱「あながち正論だよ」

『そして社内いじめ…!?展開の早さについていけない!目まぐるしい!』

綱「俺は君の妄想が目まぐるしいよ」

山「コイツおもしれーなー」

雲「面接の時も変なことばっかり言うしね」

綱「頭悪そうな子」

『なんですか!寄ってたかってやっぱり私のこといじめてるんじゃないですか!!』

綱「そこでも言い返すんだ。根性座ってるね」

うわっしまったつい白蘭様の時の癖で………!まぁいいや、こんな生意気なメイドなんて雇わないよねきっと。


綱「なんかコイツいいよね」

山「な」

雲「うん」

『え?』

綱「あんた名前なに?」

『寅ですけど…』

綱「寅ね。あんた、合格」

『…へ?』

綱「今日から働いてもらうから」

…んなああああああ!?!?

雲「うるさいよ」


合格しちゃったよ!!なんか知らんけど!






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