オレオレ


「……………」

「……………」

「…………!」

「……………」

「オレオレ電話、なんてどうだろうか」

「はい?なんですか突然」

「オレオレ電話だよ」

「だから何なんですか」

「試しに草壁にでもかけてみればいいと思う」

「いったい何の事柄についての話ですかソレは。沈黙の中とつぜん提案された私の身にもなってください」

「最近話題になってるから」

「いつの話?」

「かけてみようと思う」

「しかも加害者側なんですね」

「僕の携帯オレオレ電話はおろかメルマガ以外で鳴ることはここ7ヶ月ご無沙汰だからね」

「雲雀さん……」

「その上アドレス変更のメールを30人に送ったら28件ものエラーメールが返ってきたよ」

「ソレもしかしなくても雲雀さんのアドレス帳2人しか登録されてないんじゃ」

「よく分かったね」

「かわいそう」

「うわぁ。言っちゃった。本人を目の前に」

「逆にその2名は何者なの?雲雀さんとの通信手段を維持し続ける勇者は」

「君、僕をどこまで貶めれば気が済むんだい」

「1人は草壁さんですよね」

「うん」

「もう1人は?」

「ふふ。当ててみて。ふふ」

「皆目見当もつきません!」

「考える素振りすら見せなかったね」

「そんなくだらないことより私は今日の晩ご飯にブリの照り焼きが出ることを祈るのに必死です」

「もうちょっと別のことに必死だったら笑って許せたのに」

「結局だれ?」

「母親」

「……。……。……。」

「文字でしか伝わらない沈黙の三連コンボはよしてよ」

「くだらねぇー」

「僕のハートは今にも握りつぶされそうだよ。寅に。ていうか寅もエラーだったんだけどどういうつもり?」

「だって雲雀さんとアドレス交換したその日に変更して忌まわしき雲雀さんとの繋がりを遮断したもの」

「え…まさか忌まわしいほど嫌われてたなんて」

「そのまさかですよ」

「フォローしろよ」

「ていうかさっさと電話かけたらどうですか。ほんと忌まわしい」

「僕ってそんな些細な挙動すら忌まわしいかな。分かったよ今かけるからオレオレ電話」

「まずオレオレ電話じゃなくてオレオレ詐欺の電話ですからね。ちょっと略したくらいで若者気取り。忌まわしい」

「草壁早く出てくれ。僕の心がくじける前に」

『もしもしー』

「あっ僕『何かご用ですか?委員長』

「………」

『委員長?』

「……寅」

「何?」

「草壁にバレた!」

「当然ですよ。向こうは雲雀さんの番号登録してるんだから、雲雀さんからかかってきたことが表示されてバレますよ」

「そんなハイテクな機能があるんだ。電話かかってきたことないから知らなかった」

「やるなら知らない人じゃないと」

「やだよ。知らない人に電話なんて緊張するでしょ」

「雲雀さんに詐欺を働く資格はないよ」

「じゃあいい。寅にかけるから」

「番号知らないじゃん」

「教えて」

「嫌です」

「いいじゃん。僕たちタダ友でしょ」

「友達じゃありませんから」

「泣くよ」

「泣いたら承知しません」

「ふん。世の中泣いたモン勝ちだよ。徳川家康もそう言ってたよ」

「絶対言いません」

「静かに。今徳川家康が10年間連れ添った愛犬が死んだときの気持ちになりきってるから」

「家康犬とか飼ってないよ多分」

「飼うよ」

「飼ってませんて」

「何?その強情な態度。じゃあ聞くけど家康が犬を飼ってなかった科学的根拠でも立証できるのかい」

「うざ」

「今の二文字のおかげで涙腺パンクしそうだよ」

「泣いたら鼻にマシュマロ詰め込みますよ」

「平然と身の毛もよだつような提案しないで」

「雲雀さん私はもう帰ります」

「なんでそんな突然。話はまだ途中だよ」

「5時だからです」

「よい子!」

「雲雀さんも暗くなる前に帰ってくださいね。雲雀さんみたいに頭が丸いとストーカーに狙われやすいので」

「ストーカーのツボがマニアックすぎない?」

「それでは失礼します」

「待って!」

「嫌です」

「即答!?ホラあの…今後の風紀委員の活動予定を迅速に伝えたいんだけど」

「3秒だけですよ」

「今じゃなくて、ほら…今後急ぎの用事ができるかもしれないし」

「…分かりましたよ。コレが私のメールアドレスと番号です」

「…!待って今登録するから」

「私は急いでいるので暗記してください」

「あと少しだから!どんだけせっかちなの寅は」

「雲雀さんが忌まわしいせいです」

「…よし。コレでまたタダ友だね」

「違います。私は雲雀さんのことを一度として友達と思ったことはありません」

「そんなこと言うとオレオレ電話かけちゃうから」

「大丈夫です。出ません」

「じゃあせめてメールを…」

「読みません」

「ワァ……」

「そんな物なくても学校で話せるじゃないですか」

「!」

「雲雀さんがこの学校に引きこもっている限り」

「君臨してると言ってくれないかな」

「大切な用事なら尚更、直接言ってください」

「そうだよね…毎日会えるんだものね」

「はい」

「寅、途中まで一緒に帰ろうか!」

「どこまで忌まわしいんですか」



おわり



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