企画 | ナノ






中間テストで欠点を4つも取ったんだ、とけらけらと笑って言っていたなまえは今大量の課題に追われ涙目になっている。提出期日は明日の放課後まで。今日中に終わらせれば何の問題もないのだが、なまえは溜まった夏休みの宿題も提出するように言われたらしくひーひー言いながらノートに数学の公式を写している。ミミズみたいな字が羅列するのを見て僕はこれは絶対頭に入ってないな、と思った。下手したら書き直せと言われかねない位汚い字だった。

「なまえ、僕も手伝うよ」
「だだだだめ!いつもヒビキに頼りっぱなしだし、今回は自分でやらなきゃ…!」
「でもこれ一日で終わらないよ。まだあと英語と化学と世界史があるんでしょ?」
「………うん…」

バタ、となまえは机に倒れ込んだ。手に持っていた水色のシャーペンがころころと床に転がって行く。僕はシャーペンを取り上げると机に突っ伏したまま何か唸っている彼女のノートの上にそっと置いた。

「疲れた〜」
「おつかれ」
「ヒビキィ…」
「ん?」
「疲れた…」

僕は苦笑いを溢した。そう言えばこんなこと前にもあったよなぁ、と思い口に出せば彼女は言葉に詰まり長い沈黙の後いつもすみません、と陳謝した。暫く机に付していたなまえは突然ガバッと起き上がり自分で自分の頬を叩いて気合いを入れ直し、再びノートと教科書に向かい合った。

「これからは自分でやらなきゃだめだよね!ヒビキにばっかり頼ってられないもん!」

なまえはまるで自分に言い聞かせるように言うと僕が置いた水色のシャーペンを手に取りミミズみたいな字で数字と英語を書き出した。



今日は見守ることにしようと思った矢先、課題を再開して間もないなまえがうとうとし始めて僕は慌てて彼女の名前を呼んだ。

「寝ちゃダメだよ!」
「う、は…、…い」
「なまえ!?」
「30分だ…け」

僕の呼びかけも虚しく彼女は再び机に突っ伏して眠ってしまった。彼女の背中が規則正しく上下するのを眺めていた僕は小さく溜め息を吐き、なまえが風邪をひかないようにブランケットを掛けてから彼女のやりかけの数学の課題に手を付けた。なまえと僕は家が隣同士で幼稚園から高校までずっと一緒だ。昔から変なところでちょっと抜けてる彼女を放っておけない僕は宛ら彼女専属のお世話係みたいになってしまっている。だからって悪い気は全くしない。元来から世話焼き気質な方ではないと思うのだけれど、なまえが僕にありがとうと言って笑ってくれる顔を思い浮かべるとそれまでの苦労も全然苦にならないから不思議だ。仕方ないなぁ、と思ってしまうのだ。
僕は数学の課題と世界史の課題を終わらせ英語の課題に取りかかった。時計を見ると彼女が眠ってからもう一時間が過ぎていた。ちら、とすやすや眠る彼女の寝顔を見て思わず笑みが溢れた。なまえの肩からずり落ちたブランケットを掛け直しながら昨日も夜遅くまでバイトをしていたんだろう、と彼女の目の下にうっすらと浮かぶ隈を見つけて思った。最近始めたばかりと聞いたけれど、仕事を覚えるのも大変だとぼやいていたっけ。

「ゆっくり休みなよ」

ぽん、と彼女の背中を軽く叩いてから、僕は彼女の驚く顔を思い浮かべてノートにペンを走らせた。