企画 | ナノ


あたしはどうやらレッドのリザードンには嫌われているらしい。会う度に火炎放射を浴びせられるあたしをいつもジュゴンが庇ってくれる。グリーンに言えば行かなきゃ良いじゃねーかとさらりと最もな事を言われてしまった。けれどあたしは首を左右に振った。レッドが下りてくるまであたしから会いに行くんだ、と。そう言えばグリーンは呆れたように笑っていた。

「ジュゴン。今日もレッドの所に行くんだけど…。」

部屋の中でビーチボールで遊ぶジュゴンに言えば、また行くのか呆れた奴めと言わんばかりの目であたしを見てきた。そりゃそうだ。ジュゴンがいなければあたしはリザードンによって灰と化しているところだろう。わざわざ自分を嫌ってるポケモンがいる場所に足を運ぶ人なんてなかなかいないだろう。それでもお願い!と顔の前で両手を合わせて懇願するとジュゴンはまるで溜め息を吐いたような表情で諦めたように一つ鳴いた。

「ジュゴン…!!ありがとうありがとうありがとう!」

抱きつくと尻尾でバシバシ叩かれたけどそれもジュゴンなりの愛情表現だと思っておくことにした。




ジュゴン同様に呆れ顔のフーディンのテレポートでシロガネ山にやって来たあたしはレッドのいる頂上の入口の近くに立って心臓を落ち着かせていた。火炎放射が来てもジュゴンが助けてくれることはわかっていてもやはり怖いのだ。ジュゴンが早く行くぞと言うようにあたしに向かって一度鳴くと先に入口に向かって行ってしまった。慌ててジュゴンの後を追って入口に来たあたしに案の定火炎放射が飛んできた。すかさずジュゴンが波乗りで消火したけれどあれは何度されても心臓に悪い。

「なまえ」
「レッド…!!」

レッドは入口付近で立ち往生しているあたしに気付きリザードンに何やら話かけてからこちらに緩慢な動作で歩いて来た。リザードンは鼻を鳴らしてふて腐れたように胡座をかいてドスン、と座った。

「あ、れ?レッド…リザードンなんか拗ねてない?」
「拗ねてるね」

え、それはいいのか?あたしがレッドを怪訝な顔で見ているのに対して彼は涼しい顔のままあたしの頭に手をやり何かを軽く払うように動かした。

「な、なに」
「雪と灰が付いてる」
「ええ!灰!?」
「髪、ちょっと燃えてる」
「燃え…っ?!」

雪はともかく、リザードンが火炎放射さえしなければあたしの髪が燃えて灰になるなんてことないのに。レッドに火炎放射をやめるように言ってよ、と言ったらダメ。と言われた。ダメって…

「何で?」
「歓迎してるから」
「火炎放射で?」

レッドは頷いた。そんな歓迎あるか!と言いたかったけれどちらり、とリザードンを見れば伺うようにこちらを見ていた瞳と目が合って息を飲んだ。ぷい、とすぐに顔を逸らされたけれどあたしはそこで気付いた。あれは世に言うツンデレというものなのかもしれない、と。火炎放射はデレからくるレッド曰く歓迎、なのか。それでもやっぱり火炎放射はやめてほしいと切に思う。

「なまえ、」
「ん?」

レッドはじっと赤い瞳であたしを見ていた。あんまり見られるとこれもまた心臓に悪い。

「レ、レッド?」

人の名前を呼ぶだけよんで無反応な彼に今度はあたしが呼び掛けた。するとレッドは薄く笑って言った。

「灰被りの少女みたい」
「………え?」

それ、いろいろ混ざってない?一体どっちがいいたいの?灰被り姫なのかマッチ売りの少女なのか。返答に困ったあたしはとりあえずありがとう、と言っておくことにした。
レッドに手を引かれ奥へ行くあたしと彼を唯一この中で常識人?なジュゴンがなんとも言えない表情で見ていたのをあたしは知らない。