企画 | ナノ



付き合って3ヶ月、キスはおろか手も繋いだことのない俺達の関係は果たして恋人同士と胸を張って言えるのだろうか。ヒビキやコトネに言えばきっと「また妄想ですかグリーンさん…」とかなんとか哀れむ目で俺を見て言うんだろう。だって見てみろ。なまえは映画を見に来たというのに上映開始30分やそこらでぐうぐうと眠ってしまった。俺のやるせない気持ちといったら、上映中の今から映画が終わってもまだ言い尽くせないだろう。正直俺は期待していた。暗闇でほぼ密着状態で、飲み物を取ろうとした手が触れて見つめあって、スクリーンで恋人同士がキスをしている前で俺たちもどちらともなく…なんて。そんなドラマチックな展開を想像して別に飲まないオレンジジュースを買い、期待に弾む胸をなんとか押さえて上映を待った。なまえに見られないように掌に人の文字を書いて飲み込んだりもした。軽く50人は食った。ドッコンドッコンと今にも飛び出しそうな心臓を押さえて深呼吸をした。スクリーンの中で甘い会話が繰り広げられているのを見て、今しかない、と肘置きに置かれたなまえの手にそっと自分の手を乗せた。

「なまえ…」

そっと顔を覗き込んだ俺はそれはもう気持ち良さそうに眠る彼女の寝顔を見て暫く固まってしまった。俺の緊張を返してほしい、と切実に思った。スクリーンの中ではハッピーエンドを迎えたというのに、結局なまえが最後まで寝ていたせいで俺の計画は丸潰れになってしまった、が。ここで諦めるわけにはいかない。映画でのあれはさすがに落ち込んだが、まだ時間はある。どうしても手だけでもいいから繋ぎたい…!俺は帰り道に全てをかけた。

「映画。」

ゆっくりと隣を歩くなまえが口を開いた。俺は彼女の手に向けていた視線を上げて彼女の横顔を見た。

「微妙だったね〜」
「そ、そうか?」
「うん。やっぱり恋愛ものよりアクション映画の方が面白いよ。」

例えば〜、なんて楽しそうに話し出した彼女は俺の顔がひきつっているのに気付かない。確かになまえの好みなんか気にせずに恋愛ものを見ようと誘ったのは俺だし、上映からものの30分で眠りに落ちるほど面白くなかったとしてもだ。これでも一生懸命考えた末の選択だったんだ…面と向かって微妙なんて言われると心が萎む。心なしか足取りも重く感じる。

「グリーン!!」
「な、なんだ よ……っ!?」
「だからね、次はアクション映画見に行こうって言ったの。」
「…………」

俺は言葉を失った。もう手を繋ぐ勇気も湧かなくて、このまま今日も何も進展しないまま過ぎるのかと思っていた矢先になまえから俺の手を握ってきたからだ。それはもう自然に。 俺は手を繋ぐだけで何度も何度も脳内でシュミレーションを重ねたというのに、こいつはあっさりとそれをやってのけた。あまりに驚いて手を凝縮していたら、それに気付いたらしいなまえがはにかんだように笑いながら「グリーン、茹で蛸みたい」と言って繋がれた手をゆらゆらと揺すった。