短編 | ナノ






よく晴れた日だった。あたしはフシギダネと一緒に太陽の光を反射してキラキラと宝石のように光る水辺を散歩していた。フシギダネが気持ち良さそうに目を細めているのを見て、和んでいたあたしはふ、と雲一つない空を見上げた。その時、雲とは全く違う黒い点が空に浮かんでいるのを捉えた。目を凝らしてみればどうやらあれはピジョットのようだという事がわかった。わかった、けれども、そのピジョットが何故か此方に向かって急降下していた。ピジョットから悲痛な叫び声が聞こえてあたしはギョッとした。背中に、トレーナーらしき人物が乗っていたからだ。このままじゃ川に落ちてしまう、そう思った矢先に案の定ピジョットとそのトレーナーは川に落ちた。ぶくぶくと川に沈んで行き、波紋が消えていく様をあたしはただ見ていた。どれくらい水面を眺めていただろうか、ポッポの囀ずりが聞こえた時漸く水面がゆらゆらと波紋を広げ始めた。はっ、としたあたしは今で三個目になった白爪草で作った花冠をフシギダネの頭に乗せて、揺らぐ水面の中心に目を凝らした。よく見れば水面から手が伸びていた。
「フフフフシギダネ!蔓の鞭!!」
フシギダネは元気よく一声鳴くと水面から出てきた人物に向かって蔓を伸ばし、そして勢いよくその人物の頭を叩いて再び川に沈めた。





「ほんとすみません。」
あたしはあの後フシギダネに再び沈んだ人物を引き上げるように頼み、今こうして意識を取り戻した少年、ヒビキ君に平謝りしている。ヒビキ君は苦笑いを浮かべて気にしないでなんて言うけれど、気にしない方が無理に決まっている。川から引き上げた時の彼の死にそうな顔を思い出してあたしはまた頭を下げた。
「ところで、ヒビキ君は何で墜落したの?」
ヒビキ君に先程のフシギダネの失態のお詫びに、花冠をプレゼントしたら微妙な顔をされた。
「知り合いの人から買物を頼まれたんだけど…ピジョットが言うこと聞いてくれなくて…」
ヒビキ君は大きな溜め息を吐いて肩を落とした。なんて可哀想なんだ、この子。
「苦労してるんだね…」
ヒビキ君は力なく笑った。あたしとヒビキ君が話している間にもピジョットはヒビキ君の頭を鋭い嘴でつついていた。本当に、彼の苦労が伺える。涙が出そうだった。
「ピジョット、あんまりヒビキ君苛めないであげて。」
ヒビキ君の目から涙が流れているのをあたしは見た。
ピジョットは不服そうに、だけど暫くの間を空けてからしぶしぶ頷いた。
「いい子だね。」
「女の子にはね。」
「……そっかぁ…、」
あれ?なんかこのピジョット、あたしの知り合いのピジョットと似てるかもしれない。
「そろそろ行かなきゃ。」
疲れ果てて若さの欠片も見えなくなった窶れたヒビキ君が心底嫌そうに言った。見てわかる位に行きたくないんだろうなぁ。
ヒビキ君はピジョットにつつかれながらも、なんとか背中に乗ってあたしに振り返った。
「気をつけてね」
「ありがとうななし。」
じゃあ、そう言って大きく飛翔して行ったヒビキ君とピジョットだったけれど次の瞬間にはヒビキ君だけ川に落とされピジョットは何事もなかったように飛び去って行った。
「フフフフシギダネ!蔓の鞭!」
フシギダネは元気よく一声鳴くと川で溺れているヒビキ君に蔓を伸ばして、川に沈めた。