短編 | ナノ



引きこもりの生活から脱却し早2日、私は今スーパーへ出陣せんと、目の前に立ち塞がるカビゴンのお腹の上で寝そべっている。財布をポケットに突っ込み靴を鳴らして意気揚々と家を出た私。草むらを避けて通れるように整備された人が二人通れる程の狭い道に、何故か気持ち良さそうに眠るカビゴンが居ました。
暫くカビゴンの足の裏を眺め、擽ってみたものの起きる気配は見られなかった。ここは強硬手段だ、とカビゴンの足を踏みつけお腹によじ登ったところで、規則的に上下する柔らかいお腹が予想以上に気持ちよく買い物前に一休みしようと人様のお腹の上で図々しくも大の字で寝転がった。
「何してんだななし。」
「あ、小さいグリーンだ。」
おっと、言葉を間違えた。グリーンが小さく見える、と言い直そうとしたが彼の眉間に似合わない皺が寄っている表情を見るに遅かったようだ。グリーンはモンスターボールからピジョットを出すと私を降ろすように指示した。嫌だ、とカビゴンのお腹にしがみ付いた私の襟元をピジョットが嘴でつまみ上げた。首が絞まってわりと苦しかった。ゆるゆると近付く地面を眺めながらカビゴンの柔らかな感触を名残惜しんだ。ふわり、と地面に着地した私をグリーンが険しい顔で見つめている。
「しわ、寄ってますよお兄さん」
グリーンは深い深い溜め息と共に、誰のせいだと思ってんだ、と疲れたように吐き出した。
「小さいって言ったこと気にしてるんだね。ごめん。」
私は素直に謝った。グリーンは何処か悶々としながら、そうじゃないとか、いやそれもあるが、とか呟いていた。


「ポケモンも持ってないくせに、カビゴンの腹の上で呑気に昼寝してる幼馴染み見つけたら俺だって驚くわ。」
そう言ったグリーンの掌にはモンスターボールが収まっている。通行の邪魔だから、とグリーンがカビゴンを捕まえたのだ。前を見ずにグリーンの掌を凝視する私の手をグリーンがもう片方の手で引っ張っている。
「ねぇグリーン、このカビゴン」
「やらねぇ。」
「まだ何も言ってないのに!」
「そんな獲物狙うような目してたらわかるっつの!」
私は恨めしげにグリーンを睨んだ。悔しくて、腹いせに握られた手に力を込めたがそれに気付いたグリーンの仕返しによってあえなく撃沈した。
「ぐぇぇ」
握られた手が痛くてぶんぶんと振り回したが離れることはなく、歯を食いしばりながらグリーンを見上げると奴は片方の口端を上げ至極楽しげにこちらを見下ろしていた。
私は悔し紛れにスーパーの袋に入ったもやしをグリーンの顔面に投げ付けた。