短編 | ナノ



右手にゴミはさみ、左手にゴミ袋を持って校舎からノロノロと出て行くななしの後ろ姿を見送った夜天は溜息を吐いて雑巾を手に窓拭きに取り掛かった。

野球部がランニングをする隣で中庭の雑草を毟っていると、同じ班になった男子、鈴木がゴミ袋に雑草を入れながら口を開いた。
「お前よくあの夜天と話せるな。」
ななしは彼を一瞥すると、再び雑草を毟りながら夜天を思い浮かべた。
「そうだねぇ、普通に話すよ。」
「何か怖くない?こう、近寄んなオーラがあるっていうかさ…」
「う〜ん。」
ななしは曖昧に笑った。
確かに、彼は以前からその取っ付きにくい性格から周りの男子には距離を置かれていた。しかしそれを気にする様子もなく、所謂一匹狼を貫いていることから周りの女子達にはクールだとかと持て囃されている。本人はとても煩わしそうにしているが、恋する女子の眼力フィルターにはそんな苛立ちを募らせる彼もカッコよく見えているのだろう。ある意味すごくポジティブである。
「ななしは夜天と話すくせに他の女子みたいにキャーキャー言わないんだな。」
「キャーキャーって」
ななしは吹き出した。
立ち上がり手に持った雑草をゴミ袋に放り込むと、ゴミはさみで空になったパックジュースのゴミを掴んだ鈴木が振り向きながら言った。
「今日だって委員会中だってのに女子は話気かないで夜天の方ばっか見てたしさ。あーいうの本人気づいてんの?」
ゴミ袋に挟んでいたゴミを入れ込んだ鈴木はななしが取り零した雑草をしゃがんで拾った。
「気づいてるみたいだよ。でもどんなに冷たくしても寄ってくるみたいだし…大変だよね。」
恐らく今頃、同じ班になった男女から二つの意味での好奇の視線に晒されているであろう彼を想像してななしは人知れずエールを送った。
「へぇ、モテるのも大変なんだな…つーか、お前さっきから雑草毟るのは良いけどゴミ袋にちゃんと入れてくれよ。ぼとぼと落としすぎだろ。」
「あ、本当だ。ごめんよー」
小言を零しながらななしが散らかした雑草を拾う鈴木を横目に、彼女はちら、と校舎を見上げた。確か夜天は二階図書室前の窓拭きだったはず。ちょうどななし達が掃除している背後に位置するはずなのだが、彼の姿も同じ班のメンバーの姿も見えない。もう終わったのだろうか、と考えていた彼女の耳に鈴木の小言が飛んで来た。