短編 | ナノ





顔を挙げたら美化委員と書かれた文字の下に私の名前が達筆な文字で書かれていた。ぼんやりとする脳をゆっくり回転させて、覚醒した時担任に美化委員は今日の放課後多目的室に集合がかかっていると知らされた。全くもって理不尽である。寝ていたとはいえ勝手に決めるなんて酷い話だ。溜息を吐いて、再び机に突っ伏したのが2限前の話である。
終礼を終え慌ただしく教室から出て行く部活組、今日はどこに寄って行こうかなんて楽し気に談笑する帰宅組女子、そして机に広げたカードゲームに夢中のその他男子組。本来なら私も帰宅組だというのに帰れない現実に、憎らしく黒板に書かれた美化委員招集の文字を睨んだ。


渋々教室を後にした私はがやがやと騒がしい多目的室の入り口から中を覗き込んだ。
「あ。」
教室の一番後ろの席、窓際から数えて三列目に見知った銀髪を捉えて思わず声が出た。私の声に気づいたのかその人は機嫌が悪そうな表情を浮かべたまま視線だけをこちらに寄越し、私を視界に入れた瞬間元から大きな目をさらに大きく見開いた。
「ななし。」
「夜天君。」
知り合いがいて少し救われる気分で教室に足を踏み入れた。
「隣いい?」
「別に良いけど。」
「ありがと。」
鞄を机の横のフックに掛け、教卓の方へ目をやった。まだ開始まで数十分ある。至る所で会話の聞こえる教室内で、私はちらりと隣を見やった。すると、頬杖をつき顔を真っ直ぐと黒板の方へ向けたままの、彼の宝石のような黄緑の瞳が私を捉え少しハスキーな声音で、何。と短く呟いた。
「や。何か夜天君が委員会やるなんて意外だなーと思って。」
「やらされたの。」
「そうなんだ。でも拒否出来なかったの?」
夜天君なら簡単に一言、嫌だ。と言ってしまえば逃れたものを一体どうしたのだろうか。私が不思議そうに尋ねれば彼は面倒臭そうに溜息混じりに言った。
「寝てる間に決められてたんだよ。」
ブツブツと文句を呟く彼の姿を見ながら私は思わず笑みが零れた。何が可笑しいのさ、と軽く睨む夜天君に私も、と言うとキョトンとする彼。
「私も寝てる間に名前書かれてたんだ。一緒だねー。」
へらり、と笑うと彼は視線を窓の方へ向けながら、あっそ。と呟いた。