短編 | ナノ




オムライスを食べ終えた星野は綺麗になったお皿の前で手を合わせた。
「ごちそーさまでした。」
「お粗末様でした。」
食器を手に立ち上がろうとする星野を制し、彼からそれを受け取ると台所へと向かった。蛇口を捻り水を出すと軽く水洗いをしてから食器用洗剤を付けたスポンジで丁寧に洗う。
水切りをしていた私が、後ろからの視線を感じ振り返ると星野が壁に背を預けながら口元を手で覆い私を見ていた。私は眉を寄せて最後の一枚になったお皿を布巾で拭き終えると、星野に向き直った。
「どうしたの?」
「や…何かさ、彼女がいたらこんな感じなのかなって思って。」
照れ臭そうに言う星野に、私は眉を下げ笑った。
「彼女だったらもっと優しく看病してくれると思うよ。」
渇いたタオルで手を拭くと星野の腕をポン、と叩いて部屋に戻るよう促した。先程熱を計った時はまだ微熱があったのだからゆっくり寝て治して貰わなければ学校から預かった宿題を渡せない。
「もうすぐ治るんだから病人はベットに」
「ななし。」
私よりも大きな星野の手が腕を掴んだ。いつになく真剣な声色にどうしたのだろう、と彼の様子を伺った。
「俺さ、」
勢いよく顔を挙げた星野の瞳には彼に釣られるように真剣な表情を浮かべた私が写っている。
「…やっぱ熱あるかも。」
「う、うん。いや、微熱あるからね。」
「好きなんだ。」
「はい?」
私は眉間に皺を寄せて星野を怪訝な表情で見つめた。彼は一体どうしたというのだろうか。熱が上がったのかもしれないと思い、額に手を伸ばせばその手をぎゅっ、と掴まれ目を見開いた。
「星野どうしたの大丈夫?」
熱っぽい瞳に見つめられ、ごくりと生唾を飲んだ。心臓が低く早鐘を打つ。彼は相当熱が上がってしまったのだろう。私の前で気丈に振舞っていたのかもしれない。そう思うと罪悪感すら感じてしまった。
「病院行こう、星野」
「聞けよ。」
熱のせいか、腕を掴んでいる彼の手が熱い。
戸惑いながら彼を見つめると彼はゆっくりと口を開いた。
「俺は、ずっと、ななしが、す、…」
そこまで言うと星野は私の肩にパタリ、と倒れ込んだ。やはり熱が上がっていたのだろう、星野は意識を手放している。
「…。」
私は彼の体を支えながら部屋に戻り、ベットに寝かせ布団を掛けた。
ああ、どうしたのだろう。私まで彼の熱が移ったようだ。
私は星野の寝顔を眺めながら熱い溜息を吐いた。