短編 | ナノ






別にこれが永遠の別れってわけじゃあない。そう言い聞かせるのも毎回のこと。

レッドが久しぶりにマサラタウンに帰って来た。報せを聞いたグリーンは馬鹿みたいに嬉しがっていたくせにいざレッドの前にくるとつんけんした態度をとっていた。ツンデレか貴様は。隣で二人が話しているのを見ていれば不意にレッドが此方を向いた。彼の赤い瞳に吸い込まれそうになっているあたしにレッドは気付いているのだろうか。
「……久しぶり、ななし」
「半年ぶりだね」
そんな会話を交わしたのが二週間前だろうか。レッドは今日再びシロガネ山に戻るのだそうだ。グリーンが餞別にと大量の食料を贈りつけるのも毎回のことだ。リザードンが重たそうにしているのを見るのも毎回のこと。いつも思うけど、グリーンってレッドのこと好きすぎると思う。愛情が異常というか、なんというか。
「レッドは愛されてるね」
あたしは渋々ジムに向かうグリーンの後ろ姿を見ながら言った。
「…誰に?」
「グリーン」
レッドは相変わらず感情表現が乏しい。端から見たら通常の表情と全く変わっていないように見えるけれど長年一緒にいたあたしはそんな彼のちょっとした変化もわかる。レッドは今微妙な顔をしている。
「不服?」
「あんまり、嬉しくない」
どうやらグリーンの惜しみ無い愛はレッドには伝わってないようだ。少しグリーンが可哀想に思えた。
「ななしは?」
「……え?」
レッドを見れば真っ直ぐに此方を見ていた。あたしは?あたしはレッドを愛していないのかと聞きたいのか。そりゃあ勿論好きだし、愛してはいる。けれどそれはグリーンのそれとは違う。レッドはあたしの言葉をじっと待っている。なんて答え辛い事を言うんだコイツは。心の中で悪態をついて息を吐いた。
「あたしも…レッドを愛してるよ。グリーンと同じ位ね。」
そう言えばほんの少しレッドの瞳に影が落ちた気がした。心臓が小さく跳ねて、一瞬呼吸が止まった。喉元まで出た言葉を出す前に元の表情に戻ったレッドが口を開いた。
「…そう。」
「っ、レッド!」
リザードンの背に乗ったレッドにあたしは咄嗟に呼び掛けてしまった。レッドが不思議そうにあたしを見る。呼び掛けたはいいけれど何を言えば良いのかわからなくて苦し紛れに出た言葉が「早く帰って来てね」だった。レッドは少しきょとんとしていたけれど小さく頷いて微笑した。
大空に舞い上がり風を切って飛ぶリザードンの背に乗ったレッドの後ろ姿を見送るのはこれで何回目だろう。彼の後ろ姿を見つめる度に言い聞かせる。
別にこれが永遠の別れってわけじゃあないんだから。だから、

「大丈夫。」

君の帰りをいつも此処で待っている。