短編 | ナノ






付き合って何ヶ月記念日だとか、そういうものに全く関心がなかったななしはグリーンの突然のデートの誘いの意図もわからないまま適当に準備していつものように女子のななしよりも準備に時間がかかるグリーンの家までやって来た。ナナミに迎え入れられリビングで彼女の淹れたミルクティーを喉に通していると、なにやら楽しそうにナナミがななしを見て笑っていた。美人が笑うとそれだけで照れてしまう。ななしはおずおずとナナミに問いかけた。するとより一層にこにこと微笑みながらナナミは頬杖をついて言った。

「今日付き合って一年記念日なんでしょう?」

そう、だっけ?ななしは付き合った月日なんて全く頭に入っていなかった。けれど自分のことのように嬉しそうなナナミを前に憶えてないですなんて言えるわけがなくて曖昧に答えた。
そうか、今日記念日だったんだ。だからグリーンの奴人の予定も聞かずに出かけるから準備しろとか言ったのか。一発殴ってやろうと思ってたのに、殴れなくなった。ななしがナナミと談笑し、丁度カップに入ったミルクティーがなくなった時漸く自室からグリーンが出てきた。行くぞ、と言って先に家を出ていった彼の背中を見ていたななしにナナミはこっそりと言った。グリーンが一日中デートスポットが載った雑誌をとり憑かれたように見ていたと。ななしはなんとも言えない心境になり、だが、ナナミにミルクティーのお礼を言うと緩む頬を抑えて外で待っているだろうグリーンの元へ向かった。




ナナミがあんなことを言うからちょっとだけ期待していたななしは、グリーンのチョイスしたデートプランに険しい顔つきで眉間に皺を寄せていた。先程から行く場所は何故かお年寄りや熟年夫婦の集まる場所ばかり。何故この歳でしかもカップルで健康ランドや能を見に行かなきゃならんのだ。健康ランドではお爺さんお婆さんににやにやと見守るような微笑みを向けられ、能については計画を立てたグリーンが真っ先に寝るは何言ってんのかさっぱりわからないはで終いには自分まで寝てしまって係の人に起こされるまで眠っていたという始末。ななしはげんなりとしていた。そんな彼女に気付かないグリーンは今度もまたよくわからないお店に入ろうとする。ななしはグリーンの腕を引っ張って馴染みのファーストフード店に入った。

「グリーン。今日デートのはずだよね?なのに何で健康ランドとかをチョイスしたのさ…」

雑誌まで見たんでしょ?とななしが烏龍茶に入った氷をザクザクと刺しながら言った。

「な、おま、」
「ナナミさんに言われたんだよ。」
「……姉ちゃん…っ」
「何の雑誌みたの?」

ななしが烏龍茶をストローで飲みながらグリーンに目を向けた。彼は暫し躊躇ったものの観念したように例の雑誌を鞄から取り出しあるページを開いた。そこにはでかでかとデート特集!と書かれていた。ななしは穴が空くのではないかという程そのページを見つめて、次の瞬間溜め息を吐いた。

「グリーン…」
「ん?」
「これ、これだよね。グリーンのチョイスしたプラン」
「あぁ…それが、何だ」
「熟年夫婦にピッタリプランって書いてるんだけど」
「はぁ?!」

グリーンは机に広げた雑誌をひったくると食い入るように見た。そして肩をおとして項垂れた。グリーンのことだから必死になりすぎて空回りしたんだろう、とななしは思った。烏龍茶を飲み干した彼女は項垂れるグリーンに呼びかけた。

「この後どこに行く予定だったの?」
「………夜景見に」
「今日はダメだね。例年を上回る寒さだよ。死ぬ。」
「だよなぁ…」

グリーンは大きなため息を吐いた。ななしはそんな彼を見ながら苦笑いを浮かべて口を開いた。

「あたしグリーンの部屋でのんびりする方がいい。」
「ななし…」

行こう、と言うとななしは空になった烏龍茶とアイスティーの乗ったトレーを持って立ち上がった。グリーンも彼女に続いて立ち上がり出口に向かった。手に持っていた雑誌を捨ててグリーンの元に来たななしの手を彼はぎゅっ、と握りしめた。