短編 | ナノ







ひょんな事から共に旅することになったあたしとヒビキ。最初は断固として拒否していたあたしも小一時間も付きまとわれちゃもうどうでもよくなって好きにすれば良いさと半ば投げ遣りに言ってしまった。その頃にはサンダースも転がっていたヒビキのヒノアラシと仲良くなっていた。聞く話によるとヒビキはヒノアラシと共にワカバタウンからポケモントレーナーを目指して旅をしていたのだが、道に迷ったり目も合わせていないのに勝負を仕掛けられたりで中々次の町に行けなかったらしい。そうこうしている間に空腹になり倒れてしまったところを運命的にも通り掛かったあたしに助けられたんだとか何とか言っていた。本当は助ける気なかったけどね、と言えばヒビキは笑顔で「謙虚なんですね」なんて言いやがった。天然なのか?と思っていたがやはりヒビキは天然だったようだ。

「ヒノアラシ!水鉄砲!」
「まてまてまてまて」
「何ですか?」
「いや、おかしいでしょ。何で水鉄砲なの。」

ヒビキは首を傾げて眉根を寄せた。まるで何がおかしいの?と言われているようだった。ヒビキと旅をしてから気付いたことは、素直で真っ直ぐな性格以外にとても重要なことがあった。それは彼にはトレーナーとしての基礎知識がなかったということだ。炎タイプのヒノアラシにやれ水鉄砲だのやれ風起こしだのと無茶難題を指示する。その度にあたしはツッコミを入るのだけれどヒビキには全く伝わらなかった。

「ヒビキはトレーナーズスクールにでも通った方がいいんじゃない?」
「なんでですか?」
「…………」

あまりにも理解してくれないせいであたしは途方に暮れたけれど、丸3日間かけてヒビキにポケモンのタイプだとか覚える技だとかを教え続けた。その間にもトレーニングとして何度かバトルをしたけれど最初のうちこそタイプや相性がさっぱりなヒビキはヒノアラシにメタルクローとかわけわからないことを指示していたけれど3日経った今はそんな事もなくなった。

「サンダース、でんこうせっか!」
「ヒノアラシ、砂かけ!」

ヒビキとヒノアラシは日に日に絆を深めていった。抱き上げれば驚いて背中の炎を吹き出してヒビキの髪を焦がしていたことが懐かしく感じる。

「ヒビキはジムに挑戦するの?」
「はい!」
「じゃあもっと強くならなきゃね。」
「ななしさんはジムに挑戦しないんですか?」
「あ〜…」

あたしは答えることが出来なかった。ジョウトに来たのは代理ジムリーダーを逃れるためだし、せっかくだからサンダース達とのんびり旅をすればいいか、なんて軽い気持ちだった。けれどあたしは今迷っている。
ちらっとヒビキを見れば彼は不思議そうに目をパチクリと瞬きした。

「ジムは…考え中かな」

リーグ制覇後から今まで無気力に過ごしていたというのにヒビキに出会ってから彼とヒノアラシを見てきて、あたしの中に初めて旅に出た時のようなわくわくする気持ちが湧き起こるのを感じた。
あたしはサンダースを見て、笑った。