短編 | ナノ








月曜日の夜9時から始まるドラマを久しぶりに家に遊びに来たななしと一緒にリビングのソファに二人並んで座って見ていた。前からそうだったけど医療系の番組を見ると必ずななしから悲鳴が上がる。血が沢山出る場面とか、臓器が映る場面とか、ちょっとグロテスクな物が出ると決まってななしは両手で顔を覆う。でも気になるのか指のちょっとした隙間から丸い黒い目を恐々と覗かせて見てるのを何度か見たことがある。今日も手術の場面が画面に映し出された途端にななしは痛い痛い痛い、と言って画面から目を背けた。

「いったー!絶対痛いよあれ!ねぇ、レッド!あれ痛いよね!!うわわわわ、し、しし心臓見ちゃった…、」
「………麻酔してるから大丈夫」

怖いなら見なければいいのに、また彼女は顔をしかめながら画面に目を向けた。
結局、ドラマが終わるまでななしは悲鳴を上げたり安堵の息を吐いたりと百面相を繰り広げていた。毎回思うけれど彼女を見ている方がドラマよりも何倍も面白い。エンディングが流れている画面の前で彼女は疲れた様子で大きな息を吐いてソファにぐったりと背を預けた。

「はぁ…、手術って恐いなぁ」
「ドラマだよ。」
「わかってるよ。…ああ〜違う。現実じゃないってわかっててもさ恐いよ。」

レッドがもしこんな風になったらどうしようって、考えたら恐いや。そう言って彼女は情けなくへらっ、と笑った。俺は何度か瞬きをしてななしを見た。そんなことを思いながら見てたのか。自然と口元が緩んだ俺に彼女は気付くことなく続ける。

「ドナーが見つからなかったら死んじゃう病気だったらどうする?あたしはレッドがそんな病気になったら心臓でもどこの部分でも差し出すよ!」

ななしの口から飛び出した言葉を聞いた瞬間急に体温が下がった気がした。

「……いやだ」
「え、何で?」
「ななしはそのままがいい」

俺は彼女の温もりを確かめるように抱き締めた。腕の中で焦ったように名前を呼んでくるななしが確かに呼吸しているのを感じて密かに胸を撫で下ろした。