短編 | ナノ




ゴングが鳴る音がした。気がした。あたしとゾロアは睨みあったまま微動だにしなかった。緊張が張り詰めるNの部屋で、けれどNはきょとんとした顔であたしとゾロアを見ていた。

「一体何をしてるんだい?」

Nが小首を傾げて不思議そうに言ったのを聞いてあたしはゾロアに顔を向けたままにらめっこだよ、と答えた。否、本当は睨み合いなのだけれど。あたしもゾロアもこれだけは譲れないんだ。

「にらめっこ?何で?」

Nは眉根を寄せた。

「うん。話せば長くなるから短く言うけど、Nを大好きなのはどっちかでね、にらめっこになっちゃってね。」

あたしはゾロアの空色の瞳を見つめた。これはいくらゾロアだからって譲れない。あたしの方がNを好きに決まってる。そりゃあゾロアしか知らないNの事をあたしは知らないし、ゾロア以上に長い時間を共に過ごしたわけでもない。とっっても悔しいし悲しいけど、これは事実。だけど逆にあたししか知らないNだっているんだ。これはゾロアにも自慢出来るんだから!

「あたしの方が絶対絶対Nのことが好きだよ!」

そう言うとゾロアは大きく首を左右に振って鳴きながら小さな体をピョンピョンと跳ねさせた。むむむ、とあたしの唸る声とゾロアの唸る声に混じってくすくすと笑う声が聞こえた。首を捻らせれば先程まで目を丸くして事の成行を見ていたNが可笑しそうに笑っていた。

「えーと…N、さん?どうしたのいきなり笑いだして。」
「だって。二人ともあんまり真剣だったから。」

Nの目尻には涙が浮かんでいるように見えた。いくらなんでも笑いすぎじゃないか、N。一頻り笑ったNはあたしとゾロアを見てから、両腕広げてぎゅうっと抱き締めた。

「わ、わ、N?!」

驚いたのはあたしだけじゃないようで首を右に回すと抱き締められているゾロアと目が合った。ゾロアも空色の瞳を大きく見開いてぱちくりと瞬きをしていた。

「ぼくはななしよりもゾロアよりもずっと、二人のことが大好きだよ。」

Nの声音はとても嬉しそうに笑っているように聞こえた。

「あ、あたしも!Nもゾロアも大大大好きだよ!」

あたしに続いてゾロアも大きな声で元気よく鳴いた。
腕を離したNは照れたように笑っていて、あたしとゾロアは顔を見合わせて笑った。

「N大好き!」

今度はあたしとゾロアがNに抱きついた。