短編 | ナノ






唐突にきのこが食べたくなったあたしはバンギラスを連れてシロガネ山へやって来た。警備員さんにバッチを見せ目的はきのこ狩りですと告げれば微妙な顔をされた。何か言いたげな目を向けられつつ横を通り過ぎゲートを越えてシロガネ山の土を踏んだ。
「よーし!キノコ狩るぞー!!」
元気よくバンギラスと片手を上げて気合いを入れたのが今から二時間前。未だキノコは見つからず、バンギラスは自由行動に走り出す始末。あたしはキノコ探しを諦め木陰でバンギラスがドスンドスンと跳び跳ねているのを眺めていた。今更になってあの物言いたげな視線を寄越した警備員さんの心境がわかった。キノコ?あるわけねぇだろ。そう言いたかったんだろう。そもそもキノコ狩りにシロガネ山を選ぶのが間違いだったか。
バンギラスは逃げ惑うモンジャラたちを楽しげに追いかけ回している。ヨーギラスが追いかけていれば可愛げがあるのに、なんて思い出に耽っているあたしの後方でどさり、と音がした。振り向けば一人の少年とピカチュウが倒れていた。慌てて駆け寄りバンギラスを呼んで近くのポケモンセンターへ運んだ。
「何してたの?」
「え、それあたしの台詞じゃない?」意識が戻った少年、レッド君は開口一番そう言った。
君こそ何をしていたんだ、そう言えば山にいた。とめちゃくちゃアバウトな返答をされた。息してた、と同じくらいアバウトで質問に答える気が全くないと思える一言だった。
ポケモンセンターを出てキノコも狩るどころか見つからなかったし帰ろうと思い、ピカチュウと一緒にモンジャラを追いかけ回しているバンギラスに呼び掛けた。
「山籠りもほどほどにね」
レッド君は無表情で頷いた。じゃあ、そう言って肩にピカチュウを乗せて山へ帰って行く彼のズボンのポケットからキノコが顔を覗かせていた。