短編 | ナノ
Nとゾロアは大変仲が良かった。長年Nと一緒にいるあたしでさえ間に割り込めないような二人だけの絆のようなものがあって、それがあたしは純粋に羨ましいと思った。いつだったかゾロアがあたしに化けてNの前に現れた時、Nは迷うことなくあたしに化けたゾロアを指さして「ゾロアだろう?」と笑って言い当てたのを覚えてる。あの頃不思議に思ってNに何で言い当てれたのかと聞いたらゾロアは化けてもいつも尻尾が残ってしまうんだ、とか言っていたっけ。じゃあゾロアークならどうなんだろう。ゾロアークは完璧に化ける。その人の仕草までも忠実に真似してしまう。Nはそれでも言い当てれるだろうか?湧き上がる好奇心を止めることが出来なかったあたしはさっそくNの部屋にやって来た。そしてNが部屋を出ていった隙に待ってましたと言わんばかりにゾロアークに詰め寄った。
「ゾロアーク。Nが本物のあたしがどっちか気付くか試したいんだ。だから化けてくれる?」
大まかに説明したあたしはじっ、とゾロアークの深い緑色の瞳を見つめた。目で懇願するあたしにゾロアークは折れてくれたのか、困ったようなだけど楽しそうな笑みを浮かべるとあたしの姿へと化けた。
「おぉぉ。」
あまりにも忠実に化けるものだから感嘆の声が出た。あたしの目の前には鏡から出てきたような本物そっくりなもう一人のあたしがいた。これはさすがのNでも見抜けないんじゃないだろうか。
「ごめん。遅くなったね。」
丁度良いタイミングで私用で出ていったNがちょっと疲れた様子で帰って来た。
「おかえりN!!」
にこにこと笑ってNを見ればNは澄んだ大きな翡翠の瞳を丸くしてあたしとあたしに化けたゾロアークを交互に見た。そうして漸く意図がわかったのかNはくすくすと笑いながらあたし達の方へやって来た。
「ぼくがわからないと思う?」
そう言いながらNはあたしに化けたゾロアークの方へ手を伸ばした。わかってないじゃん。と内心でツッコミを入れたあたしは心が萎むのを感じた。自分から言い出したものだけど、わかってもらえないのは思ったよりも傷つくなぁ。
「ななし」
「う、わぁ!」
ショックを受けていたあたしの目の前に、ゾロアークの方へ向かったはずのNがやって来てあたしを抱き締めた。驚くあたしをよそにNは相変わらず楽しそうに笑っている。
「え、N!なんで…」
「ぼくがななしを間違えるわけないよ。」
「う、え、」
戸惑うあたしにNは瞳を細めて囁くように言った。
「ななしは優しい香りがする」
それは、嬉しいんだけど、恥ずかしいですNさん。すっかり真っ赤になったあたしをNと元に戻ったゾロアークが笑って見ていた。