短編 | ナノ







高校生になってから初めてのお弁当にヒビキはわくわくドキドキしていた。合格発表よりもクラス発表よりも自己紹介よりも何よりもお弁当の中身に全神経を注いでいた。授業中にも関わらず目は黒板ではなくお弁当へ向かっていたのを左斜め後ろの席に座っていたヒビキの隣の家に住むななしが見ていた。彼女の机には立てた教科書に隠れるように使い捨てのプラスチック容器に入った食べかけのサツマイモの天ぷらが置かれていた。そんな彼女の机を彼女の隣の席に座る幼なじみのシルバーが険しい顔つきで見ていた。



四時間目の授業が終了した教室内はお昼ご飯を食べに食堂に駆けていく生徒と机を合わせてお弁当を食べる生徒に別れた。そんな教室の一角に周りの生徒達まで生唾を飲み込んでしまうほど異様な緊張感に包まれた四人組が今正にお弁当を食べようと各々机に自分のお弁当箱を置いていた。

「……ヒビキ、」
「ななし。何も言うな」

目が血走る位にお弁当を凝視するヒビキをななし、シルバー、そしてコトネが心配そうに見守っていた。

「大丈夫よヒビキ君。お弁当はグリーンさんが作ったんでしょ?」
「………レッドさんだよ」
「あ〜……、」

四人は再び沈黙した。ヒビキ宅には街の暴走族達からザ・レジェンドと呼ばれ畏怖される男、レッドさんと巷で有名な大の女の子好きでカッコイイ自分に陶酔しちゃうところがたまにきずなグリーンさんが居候している。今朝ヒビキはそんな二人にお弁当を渡された。「とりあえず食えるようにはしてるから」と言う言葉と共に渡されたお弁当はヒビキにとっては不安要素の一つにしかならなかった。まるで時限爆弾でも持っているような気持ちになった。



初めてのお弁当。わくわくドキドキするお弁当。友達と仲良くおかず交換するお弁当。あ、その唐揚げいいな〜。じゃあタコさんウインナーと交換ね!なんてのを想像していたヒビキは緊張の面持ちで恐る恐る開いたお弁当を見て絶望した。
彼同様にお弁当を開いた三人もヒビキのお弁当を見た瞬間もう何も言えなかった。コトネとななしは肩を震わせて泣いた。シルバーはヒビキを不憫に思い、そっ、と彼のお弁当の中に唐揚げを入れてあげた。
突然席を立ち泣きながら教室を飛び出して行ったヒビキの机には、白米と一本の竹輪が窮屈そうに押し込まれたお弁当箱が物凄い存在感を放ち、そこにあった。