短編 | ナノ



※エリートトレーナーのお話です。










「だって高いとこ苦手じゃん、」
幼なじみのナツキは顔をひきつらせた。ななしとナツキは二人別々に旅立ち、長い年月を経てひょんな事からライモンシティの観覧車の前で再会した。気付けばナツキはエリートトレーナーなる者になっていた。そしてプライドも高くなっていた。ななしは大きな溜め息を吐いてナツキを見た。
「観覧車…乗れるの?」
「し、失敬だな!私はエリートトレーナーだぞ!苦手なものなんか」
「ふーん。じゃあ乗ろうか。」
「ま、まままままて」
今度は何だ、とななしは内心今日何度目かわからない溜め息を吐いてナツキを振り返った。ナツキは顔を俯かせてもじもじしていた。どこの乙女だどこの。
「ナツキ?」
小さな子供にやるように少し屈んで顔を覗き込み出来るだけ優しい声色で名前を呼んだ。
「……ななしは…その、わ、私と観覧車に乗って……い、嫌じゃないのか?」
「別に」
嫌じゃないけど?と返すとナツキはばっ、と顔を上げてほっとしたようにへにゃりと笑った。ああ、変わらないな。本当は臆病なくせにやけに強気に出たり見栄を張りたがるところも、この笑顔も。
「行こナツキ」
「あぁ!」
ななしとナツキは手を繋いで観覧車に乗り込んだ。



数分後観覧車から降りてきたナツキは顔を真っ青にしてベンチにもたれ掛かった。ななしは呆れつつも彼の背中を擦った。
「だから言ったでしょ?ナツキ高いとこ苦手なの忘れたの?」
「…………あぁ…そうだったな…」
「もう観覧車乗らない方がいいよ」
ななしは観覧車内でのナツキの壮絶な顔と叫び声を思い出して不謹慎ながら少し吹き出した。ナツキがじとりと彼女を見た。
「私はエリートトレーナーだ…苦手は克服せねば…」
「もういいじゃん。あたしナツキは今のままがいいよ」
面白いし。という言葉をなんとか飲み込んで胡散臭い笑顔を浮かべたななしはナツキの肩をポンポンと叩いた。
「いいや…駄目だ。」
頑固だ、とななしは思った。ななしは一つ息を吐いた。
「ななし」
「ん?」
「私の苦手克服に…つ、つつ付き合ってくれるか?」
「えー…」
正直ななしは面倒だった。乗れば騒ぎ立てるナツキの姿が目に浮かび顔を歪めた。しかし、捨てられた子犬のような目をするナツキを横目にみたななしは仕方ない、と息を吐いた。よく考えればあの面白いナツキを拝めるんだし、悪いことではないか。ななしはほくそ笑んだ。
「いいよ」
次はライブキャスターで中継でもしてやろう。
そんな彼女の思惑など知らずにナツキは顔を輝かせていた。