短編 | ナノ







あたしの幼なじみは今日、好きな女の子に告白するらしい。朝早くから家にやって来たかと思えばイメージトレーニングをしたいから付き合えなんて言いやがって、人の部屋にずかずかと入り込んでああだこうだと独り言を繰り出している。そんなはた迷惑な奴の名前はグリーン。こいつはいやに自信家でナルシストで俺様で正直ちょっと…いや、かなり鬱陶しい部類に入る人種で、長年幼なじみを続けている自分が凄いと思う。
あたしは二度寝しようとベッドに潜り込んだがグリーンがそれを許さず、うつらうつらする頭でなんとかガラスのテーブル越しのグリーンを睨んだ。グリーンはあたしには目もくれず、何処からか雑誌を引っ張り出してきては真剣に読み始めた。
「ねぇ、眠いんだけど」
「起きろ」
無茶言う。お前今何時だと思ってる。あたしは壁に掛かった丸い時計に目をやった。針は朝6時を指していた。こんな朝っぱらから家に押し掛けるなんて小学生のしかも低学年並な行為だと思うのだが、今更奴に言ったって仕方ないことだ。あたしは言葉を飲み込んだ代わりに溜め息を吐いた。
「何でもいいじゃん告白なんて。」
「ダメだ!」
「何で」
「かっこよく言いたいんだよ。」
悪いか、そう言って少し頬を染めたグリーン。周りの女子が見れば皆揃って黄色い声を上げるだろうが如何せん、あたしは幼なじみという壁が邪魔してどうも気持ち悪いとしか思えなかった。
「グリーンの素直な気持ちを言葉にしたら?雑誌に載った台詞なんて真似事グリーンらしくもない。」
さっさと寝たいが為に言った適当なアドバイスがどうやらグリーンには効いたようで、雑誌を閉じた彼はそうだな、そうだよな。なんて一人納得して頷いている。
「そうそう。相手だってグリーンの素直な気持ちをもらった方が嬉しいよ、きっと」
だから早く寝かせてくれ。あたしは切実に願った。
「ななし」
やけに真剣な声色で名前を呼ばれて閉じかけていた目をこじ開けて目の前の奴を見れば、居住まいを正したグリーンがどこか緊張したような面持ちで顔を真っ赤にして目を泳がせていた。
なんだコイツ。一体何があった。そう思わずにはいられない位今のグリーンは挙動不審で気持ち悪かった。
「俺、」
意を決したように口を開いたグリーンは真っ直ぐにあたしを見た。不覚にも彼の真剣な表情に少しだけ格好いいな、と思ってしまった。
「馬鹿であほで間抜けで、食い意地張ってて女の欠片も見えないお前の事が好きだ。」
「……………」
ワッツ?今のは何だ、告白の台詞なのか?あたしは目を点にしてグリーンを見た。
「…それ、まさか告白とか言わないよね?」
恐る恐る聞いてみれば、今のが俺の素直な気持ちだ、と自信満々に言われた。グリーンは顔は確かに良いんだ。だけど中身が最高に残念なんだ。
「今のじゃフラレるよ。ていうか逆にビンタされる絶対。」
「何でだよ」
「あたしが何でだよ」
どうしてわからないんだこの馬鹿は。今の言葉の何処に嬉しがる要素があった?百歩譲って好きだ、の三文字に嬉しがる要素があったとしてそれ以上に余計な付属品の言葉を言ってしまってる以上それはただ貶しているだけにしか過ぎない。これで怒らずに、うれしいなんて涙を流す女の子がいたらあたしは褒め称えるよ。なんて寛大なんですか。果たしてグリーンの好きな女の子とやらはそんなに心優しい人物なのだろうか。
「ていうか、グリーンの好きな女の子ってどんな子よ」
あんな台詞を吐かれるなんてある意味相当凄い子に違いない。馬鹿あほ間抜けの三拍子とはなかなかいない。あたしはテーブルに置いてあるグラスを手に取り、喉にお茶を流し込んだ。透明なグラス越しにグリーンの顔が見える。何故か奴は真顔であたしを見つめていた。そして口を開いた。
「お前」