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「何悩んでんの?」とバイトの休憩中に梓に言われてあたしは初めて自分が難しい顔を浮かべていることに気が付いた。バイト中だというのに頭はずっとレッド君のことばかり考えている。あのお祭りの日以来あたしはレッド君と上手く話せなくなっていた。その原因はあの時感じた嫉妬という名の醜い感情を抱いたせいなのだけれど、その嫉妬がどうして生まれたのかあたしには全くわからなかったのだ。小さい時はよくお兄ちゃんの友達に焼きもちを妬いていた。お兄ちゃんを盗られたみたいで嫌だったから。きっとレッド君に対する嫉妬もそれだと思った。なのにどうしてもしっくりしない。あの時感じた嫉妬は、焼きもちなんかじゃない。悲しくてイライラして、泣きたくなるような感じだった。何でだろう。

「碧?」
「………え?」

深く考え込んでいたからか、梓があたしの目の前にいることに全く気が付かなかった。その上いつの間にかバイトも終わっていた。唖然とするあたしに梓が不思議そうに首を傾げて顔の前で軽く手を振った。

「起きてる、よ」
「そう。良かった。」

あたしは溜め息を吐いてロッカーを開けた。
「何ずっと悩んでんの?」
「いや…、うん。あのさ、嫉妬って何?」
「は?」

梓は呆気に取られたような顔をした。それから数秒間をあけてから深く長い溜め息を吐いて言った。「好きな人でも出来たの?」と。あたしはレッド君が好きなのだろうか。よくわからない。


用事があると急いで帰った梓と分かれて、のろのろと店の裏口から外に出た。少し冷たい風が頬を撫でて行く。ふと、夜空を見上げると赤い星が輝いていた。まるでレッド君の瞳みたいだと思った。

「碧」

夜空を眺めていたあたしの耳に今思い描いた人物の声が届いた。ゆっくりと夜空から声のした方へ目を向ければ、やっぱり。

「レッド君」

どうしてここにいるんだろう。そう思ったあたしの心を読んだみたいにレッド君は暗いから迎えに来た、と言った。

「場所知ってたの?」

あたしがそう言うとレッド君は徐に一枚の紙を差し出した。地図だ。それも事細かく書かれている。端にお兄ちゃんのサインまで入っている。

「…迎えに来てくれてありがとう。」

相変わらずのポーカーフェイスの彼に小さく笑った。
脳裏に梓の言葉が過る。

「好きな人でも出来たの?」

出来たのかもしれない。