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ふわふわする意識が次第にはっきりとして来た時、あたしは眠りから覚めた。ベッドによこになりながら焦点の合わない目で天井を見つめていた時、ぬ、と目の前にレッド君の顔が現れてあたしの心臓は一瞬止まった。吃驚して目を見開いて固まるあたしの目の前でレッド君が脇を掴んで持ち上げたピカチュウの小さな腕をぬいぐるみか何かで遊ぶように左右に振っていた。ピカチュウは別段気にすることもなく心配そうにあたしを見て様子を伺うように一声鳴いた。
「………」
「起きてる…?」
「お、きてます。」
レッド君はふむ、と小さく頷くと徐に額をあたしのそれとくっつけた。爆発しそうなあたしを他所にレッド君は普段と変わらず涼しい顔をして言った。
「少し、熱い…」
そりゃあそうですとも!あたしは内心で激しくツッコミを入れた。レッド君の一挙一動にあたしの心臓は全速力で走った後のように激しく脈打つし、あたしの何年あるかわからない寿命だって確実に一日分位ずつ減ってる。このままレッド君と一緒にいればあたしは早死にしてしまうだろうと思う。あたしは出来るだけレッド君から離れようとベッドから起き上がり上半身を仰け反らした。
「だだ、大丈夫。これ多分熱じゃないから。」
レッド君のせいで体温が急上昇しただけだから!
「……本当に?」
「ほ、本当に!」
彼の赤い瞳がじぃっとあたしを捉える。物凄く恥ずかしくて出来るだけ自然に目を逸らしたあたしはそのまま床にいるピカチュウに目を向けた。
「おいで、ピカチュウ」
そしてあたしを助けてくれ!ピカチュウはあたしの意思を察知したのかピョンと軽く跳ねてあたしの上に着地した。見かけによらずそれなりの重さがあるピカチュウが乗ったせいでちょっと…いやかなりの衝撃が走ったけれどあたしはなんとか苦笑いを浮かべてピカチュウの頭を撫でてやった。ピカチュウは嬉しそうに笑って鳴いた。
「レッド君とピカチュウが看てくれたおかげでもう元気になっちゃった。」
あたしはピカチュウを腕に抱いてベッドから出た。
「もうこんな時間かぁ…」
あたしは本棚の上に置いてある置き時計を見た。針は夕方の5時を指していた。
「レッド君、ご飯食べた?」
「……………」
「レッド君?」
レッド君はあからさまに目を、というよりは最早顔を剃らした。一体どうしたんだろう。あたしは怪訝な目目を向けてから、ピカチュウは何か知ってるだろうかと思い腕の中へ視線を落とせばピカチュウもレッド君と同様に「ピ」、と小さく鳴いてから顔を背けた。それはもう後ろめたい事があるように。
「……………」
今はただ胸に渦巻く嫌な予感が気のせいでありますようにと願うばかりだった。