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「大丈夫…?」
「うん、ごめんね…」
ベッドに横たわる碧はおでこに冷えピタを貼り頬を赤く染めて少し辛そうに眉を下げて笑った。

ピカチュウ家出事件から数日経った今日彼女は体調を崩し熱を出してしまった。身体の異常に鈍感なのか、碧は熱があるというのに学校に行こうとしていた。彼女の異変に気付いたレッドが玄関に向かう碧の腕を掴み引き留めて、自分の額と彼女のそれを合わせて暫く間を空けて熱がある、と一言呟いた。碧が大丈夫大丈夫、とへらりと笑った瞬間だった。彼女の体がぐらりと傾いた。レッドは倒れる彼女の細い肩を抱いて受け止め、さら、と落ちた黒い髪の間から熱のせいで頬を赤らめた彼女の顔を覗いた。
「あ、ごめ…、」
目の前が揺れているのか、覚束無い足取りでレッドの腕から抜け出した碧はその場に座り込んでしまった。徐に彼女の前に腰を落としたレッドは碧に向かって、背中に乗るように促したが恥ずかしがる彼女は首を左右に振って乗ることを躊躇った。
「ダメ。乗って」
「うっ…」
普段のレッドとは違うような有無を言わさない声音に碧は観念したのか渋々彼の背におぶさった。
部屋に運ばれベッドに横になった彼女はすぐに眠りに着いた。
次に碧が目を覚ました時、ボヤける視界に鮮やかな赤色が飛び込んで来た。レッドだ。彼はずっと彼女に付いていたようで、レッドの横には冷えピタや体温計が置いてあった。
「レッド君、」
掠れた声で名前を呼ぶとレッドは目で何?と答えた。
「体温計…取ってくれる?」
レッドはこくり、と頷き言われた通り体温計を彼女に渡した。碧は小さく笑ってありがとう、と言うと体温計を脇に挿した。
「…熱い?」
「うん…」
レッドはす、と彼女の赤い頬に手を添えた。
「うわぁ…レッド君の手冷たい」
「碧が熱いからね」
その点を除いてもレッドの手は冷たいだろう、と碧は思った。雪山に住んでいたからだろうか。それとも元から体温が低いのか。きっと両方だろうな、と彼女は思う。
「気持ちいい…」
碧はレッドの手の冷たさに心地よく感じて目を細めた。
ピピピ、と体温計が鳴った。見てみれば38.5という数字が示されていた。
薬を飲まなければ、と立ち上がろうとした碧の体をレッドがやんわりと制止する。見ればレッドは目で起き上がるなと言っていた。
「薬飲まなきゃ」
「取ってくる」
「……ご飯も作らなきゃだし」
「……………俺が作る」
だから大人しく寝てろ、と言うのだろうか。碧は凄い間を空けてから答えたレッドが本当に料理を作れるのか些か不安になった。彼はそんな彼女の心境なんて知らずに「寝てて」と短く言うと静かに部屋を出て行った。本当に大丈夫だろうか、と思った碧だが瞼を閉じればそんな思いとは裏腹に襲ってくる睡魔に負けて眠りに落ちてしまった。