柳宿 | ナノ






いつも通りのすがすがしい朝、カーテンから差し込む日の光で目が覚めた。目覚ましが鳴る一時間も前だった。

(…早起きは三文の徳…だ…)

重たい目を擦り、ゆっくりと体を起こす。伸びをして、ボサボサの髪を手櫛である程度整え、布団からのそのそと出た。顔を洗いに部屋を出て洗面所へ向かう。フローリングの床がひんやりと冷たくて気持ちいい。
洗面所の明かりを付けて、鏡に映る自分をぼーっと眺める。我ながら寝起きの顔は犯罪者も顔負けな位恐ろしい。なんていうか…怨霊のような、そんな類いに入ると思う。小さく息をついて蛇口を捻った。水道から水が流れ出たのを確認してそれに手を伸ばした。冷たい。手で水を掬い、パシャパシャと顔を洗い次に歯を磨く。ガラガラと嗽をする音が静かすぎる家に無駄に響いた。
タオルで顔を拭いてもう一度鏡を覗く。うん、まだマシになったと思いたい。
「はぁぁ〜お腹すいたなぁ〜」
独り言を漏らしながら洗面所を後にしてリビングの扉を開けた。
「…………………ん?」
あたしはまだ寝惚けてるのかもしれない、と思い目を擦ったり頬をつねってみた。うん、確かに痛みを感じた。夢じゃない。だとしたら幻覚かもしれない。一先ず扉を閉めた。深く息を吐いてもう一度扉を開けてみた。
「………だ……誰だ?」
ソファで眠っている綺麗な女の人はやっぱり幻覚じゃなかったようで、あたしは状況が呑み込めなくてただただ焦っていた。
「ん……」
「!!」
女の人が声を出した途端、あたふたしていた自分の動きもピタリと止まった。まるで悪いことをしている時のような感覚。やましいことはしていない、いやするはずがないし、まずここはあたしの家だ。
あたしが石化している間に女の人はゆっくりと起き上がった。
それと同時に自分の心拍数も比例して上昇する。お、落ち着け。大丈夫あたしやましいこと何もしてないんだから、だから……なんでかくれちゃうんだ自分!!!!私は隠れながら自分の情けなさを呪った。
伸びをした女の人はキョロキョロと辺りを見回した。どうか見つかりませんように、と手に汗を握り締めいつのまにか一人かくれんぼをしていたあたしの祈りも虚しく観葉植物の後ろに隠れていたあたしに気づいた女の人はいつの間にか身を縮めて隠れていたあたしの真上からこちらを見下ろしていた。息を呑み、石の様に固まるあたしとは反対に女の人は垂れ目がちな大きな瞳を見開いてきょとんとした表情で言った。
「……あんた誰?」
それはあたしの台詞だよ!!と思わず叫びそうになるのを寸でのところで引っ込め、ごくりと生唾を呑み込み口を開いた。
「………こ……この部屋の主、だと思います……」
緊張のせいか声は掠れていた。観葉植物にしがみつくあたしを、その人は理解出来ないというような顰め面で見つめながら形のいい唇を動かした。
「じゃあ何で隠れてんのよ。」
「…条件反射?」


――――――これが全ての始まり。