偽りの日常

「△▽、そろそろ起きろ」




ゆさゆさと寝たふりをしていた私に起こすという行為をしたレイメイ。「んー…」とあたかも寝ていたかのように振る舞う私。偽りばかりの日常を今日も迎える。




「おはよー…レイメイ…」
「おう、顔洗ってこい」
「んー、」





井戸から糸を器用に引き上げ、程よく水の入った桶が姿を見せる。両手目いっぱいに水を掬えば、ゆらゆらと揺れる水面にナニカが映る。鬼の角を隠したヒトになりきれない愚か者だった。そんな自分を消しさるように、パシャリと顔にぶつければ、冷たい水が顔を滴る。びしょびしょになった顔に持ってきた手ぬぐいを押し当てた。

ふぅ…とため息をつくも、「△▽ー」と呼ぶ声に笑みをこぼし、「はーい!」と大好きな彼の元へとかけていった。





「菜の花のおひたしだ!」
「握り飯を机に…っておい!つまみ食いすんな!」




えへへ〜と笑っていたらポカッと頭を小突かれる。「ったく…飯抜きにすんぞ、」なんて悪態つきながらも、やさしい笑顔を私に向けるレイメイに、心臓がキュンって締まる。レイメイから渡されたお盆を受け取りぱっぱと机に並べ、二人が正面に向き合って正座した。





「ではっ、」
「「いただきます/いただきまーす!」」





パクっと口いっぱいに握り飯を頬ばれば、ほんのりお塩の効いたお米が嬉しそうに口の中で踊った。




「んーっおいひ〜っ!」
「おー、そうかよ」




次から次へと手を伸ばしていく私を、レイメイは見つめていた。





「ん?どーひはの?」
「え?あぁ…相変わらずうまそうに食うなって思ってな」
「だって美味しいんだもん!」





幸せーっと口元をだらしなく緩ませたとき、レイメイが身を乗り出した





「レイ、メイ……?」




ゆっくりとした手つきで私の顔へと手が伸びる





「△▽……」





レイメイが触れたのはくちびる…のすぐ横だった。でも指先がほんの少し唇を掠めた時、ビクッと体が震えた。一瞬触れた、と思うとすぐに離れ、乗り出していた身も座り直され今はまた机の距離に戻る。





「コメ粒、ついてたぞ」





レイメイの親指についた一粒のお米。
それをぺろりと口に含み、何事もなかったかのようにレイメイはまた食事を続けた。

私は動けないまま目の前の人間を見続けた。おひたしを口に含んでいた彼は、視線を私とかちあわせてこう言った。




「顔、真っ赤だぞ、△▽」



−ウブでかわいいな




にやっと笑う彼に、ノックダウンされた私。わざわざ人間に化けてまでレイメイといるのは、この人が好きだから。






偽りの日常





「お前、鬼の子だな?」
「…せーかい、さすが九尾の子だね」
「なぜレイメイに近づいた。生気を吸い取るためか?」
「…そうさ、鬼は生きるものから生気を吸い取って強くなるからね。こいつは強いエネルギーを持っていた、だから近づいた」





たとえいつかバレたとしても、





「…△▽、?」
「…私はお前を騙していた。馬鹿な人間だ、そんなことに気づきもしないで何年も。」
「………」
「っ、もう、十分力はついた、これで、…お別れだ、にんげん」
「待てっ、△▽…!」





私はきっと、レイメイが好きなままだろう。