木の葉 | ナノ






「え、イタチくんって甘いの好きなんだ」
「あぁ。俺が甘党だとそんなにおかしいか?」
「なんか、意外だなって思ってさ」


最近うちの甘栗甘に来るようになったイタチくん。いつも緑茶しか頼まないのに、今日はみたらし団子を一緒に頼んだから、思わず驚いてしまった。


「てんちょー、みたらし団子1つー!」
「はいよー」


やはり普段の任務で疲れたら甘いものが欲しいのだろうか?イタチくんは結構大変な任務をしているってよく聞く。なんたって、忍者アカデミーを首席で卒業したんだとか。一般ピープルのわたしにはよくわからないけど、一位だからきっとすごいんだろう。


「この後も任務?」
「いや、今日はない」
「そうなんだ、久しぶりのお休みじゃない?イタチくんは。」
「そうだな」
「ゆっくりしてってね」
「あぁ、ありがとう」


人当たりが良く、大人っぽい雰囲気のイタチくんは同級生とは思えない。そしてそんなイタチくんにわたしは密かに恋をしている。

でもまぁ、イタチくんを好きな女の子はたくさんいると思うから、わたしはただ傍観者を貫いている。


「**は、今日何時までバイトなんだ?」
「うーんとね、今日は20時までだからあと2時間かな」
「そうか、」


不意に口を閉じたイタチくん。どうしたの?の顔を覗き込んでみたが、イタチくんの考えることは分からなかった。


「バイトが終わったら送っていってもいいか?」
「え?」
「家まで、
「そんな、悪いよ!」
「20時だともう暗いだろ?危ないから心配だ。それとも俺が送るのは嫌か?」
「〜〜い、…いやじゃ、ないです、」
「そうか、良かった。じゃあここで待ってるな」
「っ、急ぎます!」
「急いでも8時までなのは変わらないぞ?」
「はっ、そうだった…!」


そんな会話をしていたら程なくして新しいお客さんが来たため、名残惜しくもイタチくんにまたねと言った。いつもはこれでサヨナラだけど、今日は違う。それだけで気分は上々だった。




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「ごめんっ、今終わったからもうちょっと待ってて!」
「あぁ、お疲れ様」
「5分で戻るね!」
「そんなに急がなくてもいいぞ?」
「わたしが急ぎたいの。ありがと、ちょっと待ってて!」


ドタドタとスタッフルームを駆け巡り、最後に全身鏡の前で自分チェックをしてからバイト先を飛び出た。


「っおまたせ、!」
「ふ、っはは、ックク…」
「?」


なぜか店を出たらイタチくんがクスクスと笑っていた。レアだ、と思いつつ近寄る。


「どうしたの?何かあったの?」
「っふは、…特に意味はないんだが、ックク、店の中から聞こえる音を聞いてたらおかしくなってな」
「えっ、ななななんで?」
「滑る音だったり、ぶつかる音だったり、たまに叫んだり、意気込んだりって忙しそうでな、ククッ、」


そんなに変なの!?と焦った。確かに、畳の部屋では滑ったしドアに直撃して痛って叫んだし、鏡の前ではよしって意気込んでたけど、まさか全て聞かれていたとは。そもそも耳が良すぎなんだよ、忍者は。


「は、恥ずかしい…」
「家でもそんな感じなのか?」
「う、…否定できません…」
「はは、一緒に暮らしたらきっと飽きないんだろうな、**は」
「!?」


いっ、一緒に暮らす!?けけけけけ結婚!?

目を白黒させ、金魚のように口をパクパクさせた。なんちゅー発言をしてるんだイタチくんはっ…!!

イタチくんのイケメンフェイス&ボイスにときめかされっぱなしのわたしは彼の言葉でノックアウト寸前だった。


「〜〜、そ、そー言うのは、言う人をちゃんと選ばないと、ダメだよ、」
「……つまり、どう言うことだ?」
「だからッ、!」


イタチくんの、好きな人とか。

そう言おうと思ったのに、心臓がぎゅう、と締められて、うまく言葉が出てこなかった。開いた唇を閉じて、彼から視線を外した。


「俺の想い人、とかか?」
「っ、そ、だよ。イタチくん、そういう人いるの?」
「あぁ、いるさ」
「…そっか。いいね、きっと素敵な人なんだろうね」
「あぁ」


ズキズキと、心臓が悲鳴をあげる。そんなに愛しそうな顔をするから、わたしに出る幕なんてないじゃん。…苦しいなぁ。


「**には、そういう人はいるのか?」
「…いるよ。すごく素敵で優しくて、かっこいい人。」
「…そうか」


**が言うなら、きっといいやつなんだろうな。そう呟くイタチくんに、うん。とだけ返した。私にはもったいないくらいの、素敵な人だよ。と付け加えて。

なんとなく、喋りづらくなって、お互い口を閉じる。いつもは短すぎる家までの距離が、なぜか今日はやけに長く感じた。

お互い無言のまま、ゆっくりと歩みを進める。ぬるい風が2人の間をすり抜ける。


「…**」
「っ、なぁに?どうしたの?」


そんな中、いきなりイタチくんに声をかけられ驚く。できるだけ平静を装うように返事をした。


「今日、満月だな」
「え?あ…そうだね」


主張の激しい月の光が辺りを照らす。ただ太陽に反射しているだけなのに、どうしてあんなに綺麗に真っ白に光るんだろうか。


「白玉みたいだね」
「ははっ、**の頭は甘味だらけだな」
「だって、好きなんだもん。あまいの」
「あぁ、俺も好きだ」
「イタチくん、甘いもの好きだと思わなかった」
「…少し寄っていくか?」


そう言ってイタチくんが指差したのは、小さな公園だった。寄りたい、と素直に言えば、クスリと笑うイタチくん。

だって、今日は満天の星に、満月なんだもん。そう言い訳した。


「甘味が好きだと、子供っぽいか?」
「ううん、そんなことないよ。甘いものは正義だからね」
「**らしいな」
「ふふっ、馬鹿なだけだよ」


ベンチに座って恋人同士みたいに笑い合った。決して叶わぬ恋だとしても、この瞬間だけは、イタチくんを独り占めしたかった。


「なんでもっと前から、甘いもの頼まなかったの?」
「…子供だと思われたくなかったんだ」
「え?誰に?」
「……今日初めて頼んだのは、好きなものを共有したかったから」
「イタチ、くん?」


何を言っているのか、よくわからなかったか。夜空を見ていた私の視線はイタチくんに向く。夜空を見るイタチくんの横顔だけが見える。


「甘味処なのに、甘味も頼まず茶ばかり飲んでいたのは、会いに行くため」
「……」
「危ないから送るだなんて、そんなのただのこじつけの理由で、本当は一緒にいる時間を過ごしたかっただけ」
「〜〜っ、それって、」
「ここまで言えば、わかるか?」


頭の中がパニックだ。イタチくんが何を言っているのか、わかっているのに処理しきれない自分がいる。

完全に固まった私に追い打ちをかけるように、イタチくんは私の手を握った。少し低めの彼の手に包まれるが、私の体温は壊れたように急上昇する。


「好きだ」
「!!」
「いつからなんてわからない。気づけば**を目で追っていた」
「イ、タチ、くん…」
「これからずっと、俺のそばにいてくれないか?」


あまりにまっすぐな彼の視線は、私をまっすぐ突き刺した。心臓がバグを起こしたみたいにうるさく速く脈打つ。

何か言わなきゃって思うけど、頭の中が整理されてなくて、何を言えばいいのかわからなくなってしまって、とにかく思いついた言葉をスラスラと言った。


「っすき、すきだよ、イタチくん、…苦しいくらい、すき、」
「ッ、」


腕を引っ張られ、ぎゅっと抱き締められた。もう訳がわかんないけど、幸せだってことはなんとなくわかる。

好きが溢れて止まらない。全部全部伝えたくて、何度も好きだと言った。


「イタチくんが、好き…私も一緒にいたいよ、」
「**、」


耳元で名前を囁かれると、頭の中がアイスのようにドロドロに溶けたようだ。紡がれる言葉1つ1つが苦しいほど愛しい。


「イタチく、」
「ありがとう、**」


顎に手を添えられ、ゆっくりとイタチくんの顔が近づく。流れに身をまかせるように、そっと目を瞑った。



ファーストキスは、みたらし団子の味がした。



「ふふ、イタチくんのキスは、甘いね」
「…キスは、甘い方がいいだろ?」





コロコロ甘い、黄金色



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