「おはよ!キバ!」
「いって!って**かよ!」
「赤丸もおはよ!」
「ワンッ!」
「ふふ、今日任務?」
「おー。**は?」
「今日はオフ!」
勢いよく背中をぶっ叩いてきたのは同期の**。朝も早いのに元気なこった、と苦笑するも、その元気良さに惹かれている。
「頑張ってね!」
「おう。お前もゆっくり休めよ」
自分よりも一回り低い位置にある頭をクシャ、と撫でた。そうすれば顔を真っ赤にさせて怒る**が見たくて、されるのが嫌なのをわかってていつもする。
「っ、子供扱いしないでよ!」
「ははっ、だってお前ちっこいからさ」
「ちっ、ちっこいって!!」
馬鹿!と俺の腹を殴って走って逃げていく**。ふわりと香る花みたいな匂いが嗅覚をくすぐる。その後ろ姿を追いかけて捕まえたくなる。でも、それをしてはいけないことを知ってる。
「おっはよー、**」
「ヤキ!おはよっ」
「今日休みだろ?行くか?」
「もち!」
好きなやつには、好きなやつがいる。あーあ、こんなこと知らなかったらよかったんだけどなぁ。
「クゥーン…」
「俺ってほんと、ダッセーよな、赤丸」
もうあいつを撫でるのは最後にしよう。あいつの感覚を忘れるようにワシャワシャと赤丸の頭を撫で、ポケットに手を突っ込んで待機室への道のりを進む。
最後っつーの、何回目だっけか。
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「今日はどうしたの?キバ」
「…っス」
「お前らしくない。なぜなら、今日のお前はうるさくないからな」
「俺はいつもうるせぇのかよ」
「キッ、キバくんっ、そんなことないよ、!」
珍しく任務でミスって、怪我を負った。大した怪我じゃねぇから軽く手当だけしてもらったけど、一応病院に行っとけってなったからみんなと別れてから病院に向かう。
いてー…、とヒリヒリする腕をパタパタと仰ぎながら病院に向かう。
もう自分がダサすぎて笑うしかなかった。
(こんなとこ、絶対見られたくねぇ…)
頼むぞー、と誰にいうわけでもないけど頭の中で呟いた。しかしまぁ神様とやらは意地悪で。
「キバ…ッ!」
「……まじかよ」
焦った様子で駆け寄ってくる**を見て、思わず苦笑する。
怪我をした左手を背中に回した。傷口が服に擦れてズキッと痛み刺激が走ったが、バレないように口角を上げた。
「っ、腕!」
「は?」
「腕見せて…!」
「な、なんで…」
「ヒナタに聞いた!!」
勢いよく俺の腕にその手を伸ばした**。その勢いに圧倒されて為すすべが無く情けなく血が垂れ流れる腕が露見する。
「〜〜っ、」
「…**、?」
それを見た途端、**が泣きそうな顔になった。頭が整理できてないまま、ただ苦しそうに顔を歪める**を見つめることしかできなかった。
「毒とか、大丈夫なんだよね…?」
「あ、あぁ、」
「よかった…」
まるで祈りを捧げるように、俺の手に自身の額をつける**。本当によかった、なんどもそう呟く**がわからなかった。
なんで、どうして、俺より苦しんだ表情なんだ。
触れられている箇所が、異常に熱い。ジクジクと痛み出した腕が現実を見ろと言ってくる。
「…**」
「?」
「腕、いつまで握ってんだよ」
「っあ、…ごめん、」
人が諦めようとしてるのに、なんでこんな簡単に心に侵入してくるんだ。なんで腕を離せって遠回しに言っただけで、そんな傷ついた顔をするんだ。なんで、どうして、腕を離してくれないんだ。
「**、」
「キバは、」
「…ん?」
「私に触られるの、いや…?」
「……何言ってんだ」
腕をつかむ手の震えが伝わってくる。なんでそんな緊張してんだ。
お前が好きなのはヤキだろ?
やめろ、自惚れるから。
「**、」
「キバに、避けられるの、やだ、つらい、」
触れることを我慢してたのに、枷が外れちまうから。
ーーっキバ…
戸惑ったように呟かれた名前は、耳元で聞こえた。血がついた方の手は下ろしたけど、無傷な腕がその身を抱きしめた。
無意識だから、止められなかった。
「…わりぃ、**、好きだ」
「…なんで、謝るの…?」
ヤキが好きな**だから、この気持ちを伝えようとは思わなかった。困らせて、今までの距離感に空白ができるなら、ずっとこのままの方が良かったのに。
自分のした行動に思わず笑いが出た。乾いた吐息に自嘲する。
「頑張れよ、**」
「…意味わかんない、」
「ヤキのことだよ。…ごめんな、戸惑わせるようなこと言っちまって」
「ヤキ…?」
言葉を紡ぐたびに、ずぶり、と心臓に刃物が突き刺さったように痛かった。
最後に、**の首元に顔をすり寄せ、欲求のまま唇を沿わせた。この花の香りが、何よりも癒しだった事実に酔いそうになる。
なんのこと、どういう意味、わかんないよ。
困惑した声でそう呟く**から惜しむようにそっと離れる。最後に鼻をくすぐった柔らかい香りがなんと甘いことか。
「じゃあな、**」
「っ、待って、キバ、変だよ、なんか…!」
「もうしねぇから…またな」
目に涙が溜まっていたのは、幻視だと思う。待ってと何度も言う**に背を向ける。この時、**が何度も俺に制止をかける理由なんて考えもしなかった。
だから、こんなことになっちまった。
「キバ!!」
「っうぉ、……ッ!?」
ちゅ。
そんな可愛いリップ音が、目の前から聞こえた。
腕を引っ張られたかと思えば、両頬を打たれる勢いで挟まれ、そして柔らかい感触。
伏し見がちに離れて言った**が真っ赤な顔で俺を見つめた。
「……謝んないから、わたし」
「………」
「キバがわたしの話、聞かないのが悪い」
真っ赤な顔で眉間に皺を寄せる**。その顔は、いつも俺に向けて欲しかったあの照れたような顔で。パチパチと二、三度瞬きをして、情けない声で「は?」と反応するしかできない。
「……なんでヤキが出て来たの」
「…お前の、…好きなやつ、だろ?」
「ばか!!」
「いでっ!」
いとこだよ!!
両頬を指でグリグリと摘まれ顔が伸びる。頬から伝わる痛覚は、「イトコダヨ」の言葉を漢字変換させていった。
「……従兄弟ォォ!?」
「ばか!ばかばかばか!!」
グイグイとこれでもかと頬を引っ張られ、痛いと訴えながらも頭をフル回転させた。
なんだ、もしかして俺は従兄弟に嫉妬してたってのか。なんて馬鹿な。何してんだ俺。
「家に遊びにいってたってのは…」
「親戚の家くらい普通に行くよ!」
「やけに距離が近かったのは…」
「普通にお兄ちゃんみたいな関係性なの!」
顔を真っ赤にさせて怒る**。終わって仕舞えば拍子抜けで。今までかごちゃごちゃ考えて来たこととか、うじうじ情けなかったのとか、全部アホらしくなった。
「っはは、まじかよ、 」
「……ばか」
**から、一粒の涙が溢れた。真っ赤な顔で眉を下げて小さく怒る**があまりに可愛くて、涙に口づけをした。
「やっぱ、諦めるとか、無理だわ」
「キバ……」
「**、好きだ」
「〜〜っ、知ってるよ、ばか…ッ!」
震える肩を片手で抱きしめ、花の香りを堪能した。口からまた、甘美な言葉が溢れた。
お花畑でお昼寝ミツバチ
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