アプリコットに滲むキス
ピピピピ…ピピピピ…ピピピピ…
「……38度3分。完全に風邪ね」
「**…俺は死ぬのか…?」
「私は**ちゃんではありません。」
**が万事屋に急いで向かっている間、妙は銀時の世話を任されていた。
『銀時が1ミリでも動くようだったら後手胸縄縛りにでもしておいてくれませんか?』
こんな電話が届いた妙はオッケーと明るい声で返事をしてから笑顔でロープと薙刀を用意した。
「なんで風邪の看病でロープと薙刀がいるんだよ…」
「**ちゃんに言われたので。もし銀さんが動くようでしたら全身痛めつけてから亀甲縛りにしてって」
「それなんか酷くなってねぇか!?」
クスクスと笑う妙に微塵も笑えない銀時。その時、トントンと小刻みに扉をノックする音が響いた。
妙がクスッと笑って(銀時の股下に薙刀を突きつけてから)はいはーいと玄関に向かった。
「あら、**ちゃん。いらっしゃい、銀さんならまだ亀甲縛りにしてないわよ?」
「妙さん、おはようございます。すいません、看病を頼んでしまって」
「まだってなに!?するつもりだったの!?」
「あはは、元気そうで何より」
「これ見て元気そうってお前ッ、目ん玉ついてんのかァァァ!?」
妙に礼を言ってから見送った**は、銀時の部屋に向かう前に自宅で作ってきた雑炊を温め、白湯と氷枕、冷えピタ、銀時の着替え、ゼリー、ポカリなどを手際よく準備し、マスクをつけて銀時の部屋に向かう。
「あーあ、だいぶやられちゃってるね」
「……**、」
「ごはんは食べた?」
「……」
「卵雑炊作ってきたけど食べれそう?」
「んー、」
さっきのツッコミで疲れ切ってしまった銀時は枕に伏せながら**を見つめる。そんな元気のない銀時を見て、クスッと笑みがこぼれる。
「起き上がれそう?」
「…おぉ」
実は起き上がれるけど、世話好きの**に任せてしまおうとわざと手伝ってもらう銀時。そんな銀時を知ってか知らずか、**は銀魂の背中をさすりながら雑炊を手渡す。
「…あー」
「自分で食べれるでしょ?」
「あーーー」
「ったく、子供なんだから」
「…ちょっと待って、冷まして?ふーふーして?そのまま口に入れられたら銀さんの口から火が吹き出るからね!?」
「ふふっ」
「勘弁してくれよ…」
銀時のツッコミも元気が無くなったところで、**はマスクをずらして雑炊を冷ましてから銀時に差し出した。
「ほら、あーん」
「あー…ん、」
「どう?」
「……うまい」
「そ、よかった」
「あ。」
「はいはい」
銀時のペースに合わせてゆっくりとスプーンを差し出す**。誰かが風邪をひいたときに決まって出される**の卵雑炊は、程よい卵本来の甘さが引き出されて弱った体にはうってつけだった。
食欲がなくても食べれるそれを、銀時は一人前をペロリと食べきってしまった。
「ごっそっさん」
「お粗末様でした。それにしてもよく食べきったね、多いかなって思った」
「**の飯、残すわけねぇだろ」
「…ありがと。ほら、薬」
「口移しで「さっさと口開けろ」
あっという間に薬を飲ませ、汗をダラダラとかいた銀時の着替えを手伝いつつ、タオルで優しく体を拭いた。
「はい、着替え完了」
「あー…着替えだけで疲れちまったよ、」
「それだけ体がもっと休ませてって言ってるのよ。氷枕、代えるね」
「…**」
「ん?どうしたの?」
「お前がいてくれなきゃ、俺ぁダメだ…」
「…なに馬鹿なこと言ってんのよ、馬鹿な頭がさらに熱でやられたの?」
「**、」
**の手を取り、唇を這わせた。そんな銀時の行動にびっくりするのと同時に心臓がキュンと締め付けられた**。
そのまま猫のように手に擦り寄って眠る銀時を見て、**はゆっくりとふわふわの天パを撫でる。
「おやすみ、銀時」
:
:
銀時が眠り出して3時間が経った。そろそろ冷えピタを替えようと銀時のおでこに手を伸ばす。
ぺりぺりととれる冷えピタをさわり、緩くなって効果がなくなったのを確認して冷蔵庫に向かう。
「!!」
「どこ行くんだ、**…」
途端、立ち上がろうとした手を取られ、軽く引っ張られた。上体が傾いて、銀時の顔の横に手をついた。
「ちょ、何して、」
「…行くな」
「はぁ?」
「どこにも行くなよ、**…」
「冷えピタ取りに行くだけだって、」
「ずっと俺のそばにいてくれ」
「ッ、」
熱でうなされているのはわかる。きっと夢といろいろごちゃごちゃ混じっているんだろう。汗を掻き、火照った顔で薄く目を開いた銀時の色気は**の背中をゾクッとさせた。
「私はここにいるよ、銀時」
「ッ、…わり、寝ぼけてた…」
銀時の頭をそっと撫でたとき、ようやく目が覚めた銀時は掴んでいた**の手をパッと離した。
「可愛い寝ぼけ方するのね」
「…うっせ」
「冷えピタ、取ってきてもいい?」
「…おう」
ツンケンしたいのに照れてしまう、そんな銀時の反応に、クス、と笑みがこぼれる。かわいい、といい子にしててね、という意味を込めてマスクをしながら銀時の額に唇を落とす。
「…足りねぇ、」
「え?ッきゃ、!」
途端、物凄い力で引っ張られ、あっという間に銀時の寝ていた布団に押し倒される。驚いて抵抗もできないまま、銀時に覆い被された。
「ッ、銀時、!?」
「**、」
「ちょっと、待って…銀時風邪ひいて、ッん、!」
「っふ…**、」
マスクをずらしながら顎を掴み、銀時が**の唇にかぶりつく。ようやく抵抗する**だが、枷が外れて力の制御ができない銀時の力に敵うわけもなく、抵抗は無意味だった。
銀時は**の首筋やら肩やらをスルリと撫でていく。そして撫でた後を追うように唇を這わせていった。
「あっ、ちょっ、待ってって…!」
「**、もっとだ、…」
「〜〜っ、服脱がすなって…銀時、!」
「もっと**が欲しい…」
**の背中に手を回し、谷間にキスを落とす銀時。そんな銀時の言葉と行動に顔を真っ赤にさせる**だが、次の瞬間ばちん!と銀時の両頬を勢いよく挟んだ。
「銀時!!」
「ッ、」
「ヤりたいなら風邪治してからにしなさい!!」
「……いや、そこかよ」
**の言動にようやく落ち着く銀時。もそもそと動いて**の服を整えさせた。
「……悪かった、」
「全く…絶対風邪うつるよ、これ。」
「そん時は俺が看病してやるよ」
「ハーゲンダッシュよろしくね」
「現金なやつだな…」
もういっかー、とマスクを外す**。そしてそのまま銀時に抱きついた。
「ちょ、何これ生殺しですか」
「せいぜい私に移しなー。そしたらすぐよくなるよ」
「それはダメだろオイ」
「散々しといて今更なんだ」
「すいませんでした」
クスクスと笑って銀時の頭をなでる。すると銀時も気持ちよさそうに目を細めるから、そのまま2人で抱き合いながら眠った。
アプリコットに滲むキス
(まさか新八くんに移るとはね〜)
(なんでだよあれどう考えてもお前に移って銀さんが看病するフラグだったろ!!!)
(銀ちゃん、新八に何やったアルか?)
(まさか銀時…新八くんに無理やり…)
(してねぇよ!!1ミリも触れてないんですけどォォォッ!!)
(……もう少し静かに看病してください…)
(待っててね新八くん、もうすぐ妙さんが卵雑炊持ってくるからね)
(なんで**さんが作ってくれないんですか!?俺治す気あります!?)