無個性だった幼馴染

とても可愛い女の子だった。無個性だといじめられていたけれど、いつだって綺麗に笑ってたのに。

「なんで、キミが…っ」

「ひさしぶりだね、かっちゃん、いずっくん」

「っんでそっちにいるんだよ!!」

「もう、顔怖いよ、二人とも」

「テメェが…っなんでヴィランなんだ!!!」

「ふふ、ヒーロー、がんばってね、かっちゃん、いずっくん」

「アイツらがお前の言ってた幼馴染か?」

「うん。よく覚えてたね、弔くん」

大好きだった女の子が、敵になるなんて。



中学んときの失態が、ここまで拗れるとは思ってもいなかった。

「死ねぇ!クソガキ!!」

真っ直ぐ向かってくる鋭利な刃物。避けられねぇ、そう直感したその瞬間、刃物と俺の間に飛び込んで来たのは華奢なアイツだった。

ズブ、ブシャ…ッ

目の前を色付ける真っ赤な鮮血に体が固まる。なんで、敵のお前が俺を庇ったんだ。

「っ、かっ、ちゃ…ッゲホ…」

「おま、なんで…」

「怪我、ない…?」

虚ろな瞳で口からも血を流すコイツに頭が真っ白になる。刃物が抜かれ、その場で膝立ちになる女は俺の頬を血濡れた手で触れた。

「なんで俺を庇ったんだ…!!俺はテメェにあん時、あんなひでぇこと…ッ」

「かっちゃん、」

後悔、してるの…?

そんな弱々しい声で言った言葉に涙が溜まる。もう敵なんて関係ねぇ、とにかくコイツを早くリカバリーガールんとこ連れてって、そんで、

「かっちゃん、過去は、変えられない、んだよ…」

「っわぁってるよ、んなもん…!」

「でも、未来は、変えられる、から、」

「死ぬな…!生きろ!俺をかばって死ぬんじゃねぇ…!!」

「一つだけ、…生きれる、方法、あるの…っ」

「っ早く言え!俺にできることならなんでもするから、頼むから…っ」

「そう言うと、思った…、ふふ、」

だらんと地面に転がってた腕が、俺の額に触れて、奴の唇がその後に触れた。

「あげる」

そんなことを言いながら。

「は…?ッゲホ…」

「っっかっちゃん!!!!」

口からこぼれた鮮血と、腹を焼き尽くすような痛みにその場に倒れた。まるで、今目の前でコイツが受けた傷をまるごと引き受けたように。

「屋上からのワンチャンダイブ、すごく語呂がいいから覚えてるんだ」

「な、にを…っゲホ、ガハッ…!」

「かっちゃんが言ったんだよ、無個性に生きる価値はないって」

「おま、え…っはっ、」

「だからね、もらったの。先生に。『いたいのいたいのとんでいけ』って言う個性。かっちゃんにとんでいけ、私の傷」

じゃあね、過去は変えられないよ、過去に受けた傷も、変えられない。変えられるのは、今の傷だけだよ。
さようなら、私の幼馴染。

あ、そうだ。

「身を挺して守ってくれてありがとうね、ヒーローかっちゃん」



「過去に何があったのかもあの女とお前らの関係も知ったこっちゃねぇ」

「お前らはヒーローの卵で、アイツはヴィランだ。いい加減に分かれ」


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