情けないな、両片思い

轟炎司が嫌いだ。

人の個性が宝石だからと言って、体育祭では一瞬で場外に出される。そんなに私のことが嫌いなら、構ってくるなってんだ。



あの女を見ていると腹が立つ。
ヘラヘラと笑って決勝の舞台に立つその姿が、あまりに目を惹かれてしまうから、他の誰にも見せたくない。
宝石を纏って戦う姿が、悔しいがこの世のものとは思えないほどきれいで、人目に晒したくない。
1秒でも長く、人の前に立たせたくない。



私のことを舐めているあいつは、いつだって私を守ってくれていた。
女だからという同情なのか。腹が立って仕方がないけど、それでも守ってくれる手はいつも暖かかった。



無茶ばかりするから放って置けない。
良くも悪くも人目を惹いてしまう個性。誰もが欲してしまう個性。彼女の個性を利用すれば、億万長者など容易であるから、意地汚い奴らが彼女をつけ狙う。
ビビり女のくせに、気が強いあいつは誰かに頼る方法を知らない。だから、俺が守るしかない。



「…結晶化…止まんないの、」
「しっかりしろ、こんなところでくたばるお前じゃないだろ…ッ!!」

足の指先から結晶化が進んで硬化していっているのがわかる。きっとこれが時期に全身に回るんだろう。
その時が、私の死だ。

「と、どろ、き……」

あぁ、なんて情けない顔だ。
イケメンが台無しだぞ、ばーか。
…だめだ、おへそのあたりまで硬化が進んでいる。もう止められない。
最後に、この喋れる一瞬の間だけ、お願い神様、私に勇気をください。

──すき、炎司。

たった、この一言だけだから。


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