▽見た目によらず


私から見て高杉さんは可愛いやつだと思う。
…と最近思った。

周りはサボリ魔とか不良とか怖いとか、女子からは可愛いとか言われてるけど、どうも私にはそうは思わない。
勿論最初は私だってそう思っていた。
ミーハー女子みたいに格好いいとかイケメンとかはまぁ、多少思ってはいたが、それよりも不良という文字が頭の上に浮かぶ。
今だって不良とは思っているがそこまで怖くないと思った。

ある日私はそろばん塾前を通ってみた。
本当、偶々だったのだ。
偶々気紛れに通ってみただけだった。
こんな所にそろばん塾なんてあったんだなーと思いながらちらりと横目でそれを見てみると視界に高杉さんらしき人が見えた。
紫髪に左目に眼帯、黒の学ランに赤いシャツ。
どこからどう見ても高杉さんだった。
そろばん塾にあの不良の高杉さんが居たのだ。
いや、でもあんな不良があんな真面目そうにそろばん塾に通うわけない。

そう何度も思い、吃驚して立ち止まらせた足を進めようとした。
が、余所見をしていたせいか急に人にぶつかってしまった。
慌てて「すみません」と謝る。
ぶつかってしまった人は心が広いのかにこりと笑って大丈夫ですよ、と返してくれた。
何て良い人何だろう。
ぽーっと見惚れてしまった。
そんな私に幸い気付かず、彼は丁度さっきまで私が見ていたそろばん塾に指を指した。


「あなたもそろばんに興味があるんですか?」


そんな質問に吃驚して目を丸くする。
ぱちぱち、と瞬きを数回繰り返してから違います、と言った。


「ただこんな所にそろばん塾なんてあったんだなーと思いまして」


そう言うと彼はあぁ、と納得したような顔をした後、少し苦笑い気味に笑った。


「此処、私が働いている場所なんですよ。先生をやっていましてね。…まぁ、小さい所ですからね。気付かない気持ちもわかります。でもこんな場所でも来てくれる人がいるんですよ」

「あっ……何かすみません…」


まさか彼が此処の先生だなんて。
焦りながら謝るとあなたは悪くないんですよ、と言ってきた。
やっぱり彼は心が広いらしい。
再びすみません、と謝ると彼は困ったように笑った。
すると同時に先生、何て言葉が聞こえてきた。
聞いたことのある低い声。
そちらに顔を向けて見たが丁度壁で視界に入らなかった。
だけど聞いてわかった。
この人はあの不良の高杉さんだ。


「先生、問題終わりました」


彼も私が見えないのか坦々と口を開く。
それとも私が居ても気にしないのだろうか。
まぁ、どちらでもいいが。
もし前者なら知らない振りをしといてあげよう。


「おや、早いですね」

「あんなん楽勝ですよ」

「ふふ、流石ですね」


聞き覚えのある声から予想も出来ない敬語に思わず笑いを堪える。
不良でも敬語使うんだな、と思った。


「先生の一番になれるんなら余裕です」


ぶっ。
ちょっと吹いてしまった。
幸い高杉さんには聞こえてなかったらしく、未だ此方には気付いていない。
ぶつかった彼には不思議そうに此方を見たけど、再び高杉さんの方へと視線をやった。


「嬉しいこと言ってくれますね。なら私は採点してきますね。アイス買ってきたのでどうせなら彼女と食べててください」


では、と言い残し彼はそろばん塾の中へと入っていってしまった。


「「……」」


互いに無言。
短くて長いような沈黙が流れる。
やっぱり高杉さんは私が居るとはわからなかったのだろう。
だってぶつかった人が中へと入って行った後此方を覗いて目を丸くしていたのだから。
私も目を丸くした。
まさか二人きりになるとは思わなかったのだから。
気まずい。非常に気まずい。


「……」

「……」


矢張り両者口を開くことはない。
まぁ、気まずいから黙っていれば高杉さんもそのうち彼の後に着いて行くだろう。
とは思ったものの高杉さんは未だピクリとも動かない。
……仕方がない。
此処は私から動いた方が早そうだ。
気まずそうにぺこりと頭を下げて高杉さんの横を通った。
が、瞬時に腕を掴まれる。


「……」

「……」


掴まれたは良いが、何か言いたいのなら何か話せ。
余計に気まずい。
眉間に皺を寄せていると、高杉さんはそんな私に気付いたらしく、やっと口を開いてくれた。


「…お前、同じクラスの苗字だよな」

「はぁ…そうですけど」


そうなのだ。
運が良いのか悪いのか、私と彼はクラスメートだ。
だからって彼はクラスには全然来てない為、話したことは一回もない。
寧ろ、私なんかの名前を覚えていることに吃驚だ。

じっと彼を見ていると、目を泳がせながら何処か焦った顔をしている。
…まぁ、大体何が言いたいかは目星がついた。


「……あの、大丈夫です。高杉さんがそろばん塾に通っていたことか敬語話してたこととか噂広める気なんて毛頭ありませんから」


そう言えば少しほっとした顔になるかと思ったら焦り顔は中々収まらない。
あれ、違ったのか。
というか不良でもこんな焦った顔するんだな。
場違いなことを考えつつも目の前に居る高杉さんを再びじっと見た。


「……、そーじゃねぇ。そろばん塾とか敬語とかは全然気にしねぇ。…だから、その…」

「……」


もじもじと何か言いたげだ。
何でそんなもじもじしてるんだ。
果てしなくよくわからない。


「…あの、言いたいなら早く言ってください」


少し厳しいめに言うと高杉さんの体がピクリと跳ねた。
……何だこのヘタレ。
高杉さんってこんなキャラだったっけ。
私の腕をまだ離さず、しかし少し目線を泳がしている高杉さん。
……やっぱり高杉さんはよくわからない。
早く言ってくれないかな、視線でそう言ったように送るとやっと口を開いた。


「…こ、れ。松陽先生がさっきくれたアイス。お前と一緒に食えって言われたから食うぞ」

「……」


一瞬言われたことに理解が出来なかった。
思わず「は?」と口に出そうになったのを抑え、言われたことを理解しようとする。
ぶつかった彼は松陽先生と言い、その人からさっき貰ったアイスを一緒に食おうぜ、とのこと。
……うん、そのままだ。
いや、…別にいらないんだけど。
いや、欲しいけどいらない。
アイスは欲しいけど……高杉さんと食べるのって気まずいんだけど。


「……え、いや、えっと…」

「アイス、食いてぇだろ」


はい、勿論滅茶苦茶食べたいです。
こんな糞暑い日にいらないとか言う奴は居ないと思う。
けど高杉さんと一緒ってとこが私的に無理。


「…………、やっぱいらな「ほら、行くぞ」」


ぐいっと掴まれていた腕を引っ張られ、そろばん塾の中ではなく、日陰がある涼しい木の下へと連れてかれた。
そして「ん、」とアイスを突き出す。
どうも、と軽く返してアイスを素直に受け取り、袋から開けて口に含んだ。
アイスは美味しい。
けどやっぱり沈黙は続く。
二人共何も話さずただ無言でアイスを頬張る。
ちらっと隣に座る高杉さんを見てみたが、此方に視線は向けず違う方向を向いてアイスを食べていた。
やっぱり私には彼を理解出来ない。
でも少しだけ、何となくこの沈黙が心地いいと思った。



(それはきっと彼の優しさが少し見えたからだと思う)




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