▽当初と今


「名前、名前」と、今日も私の名前を呼んで私に寄ってくる仁王。
クラスが違うにも関わらず仁王は休み時間の時に必ずと言っていい程頻繁に来る。
何故こんな可愛くも綺麗でもない私の所に仁王が?と思うかもしれない。
だが、残念ながら私もよくわからない。
だけど、仁王には異常に懐かれている。不思議だ。

でもだからって仁王ファンからの虐めはない。
仁王に懐かれ始めた時は勿論呼び出しはあったが(私が仁王に付きまとっているとかで)、だんだん時が経つにつれて、私が仁王を付きまとっているのではなくて、仁王が私に付きまとっていると分かり、次第に虐めはなくなった。
有り難いっちゃあ有り難いけど、当初に私を虐めるくらい嫉妬していたのなら今私の腰にくっ付いている仁王を是非ともやるから剥がしてほしい。



「……ねぇ、仁王」


「んー?」


「離れてほしいんだけど」


「嫌じゃ」


「…暑い」


「今は冬じゃ、暑いわけなか」


「…じゃあ寒い」


「寒いからこうやって暖めてやっちょるきに。ぽかぽかじゃろ」


「いや…うん、そうだね。いや、暖かいけど時と場所と場合を考えようか」



あなたはもっと周りを気にするべきだ。
周りの視線を見てみろ。
女子の殆どが私達を見てるぞ。
過激派女子達は気に入らないのかちょーっと私を睨み付けてるけど、他の子達何故かほのぼのした顔で此方見てるよ。
ある意味怖い。

本当、何で仁王が私に懐いたんだか。
寧ろ私、仁王との出会いって何時だったっけ?
それすら曖昧だ。
あ、でも私が覚えてる限りでは仁王が最初私に話かけてきたような…。



「苗字名前さんっちゅーのはお前さんで有っちょるか?」


「…えー…っと。他クラスの仁王君ですよね?」


「っ!知っとたんか?」


「まぁ…(人気だしね)。それより何か用ですか?」


「…っえ、あ、っと。俺と、仲良ぅしてほしー…な、り」


「………………は?」


「(ビクッ)」


「……(え、何か怖がられた)」


「…いっ、嫌か?」


「あ、いや、そーじゃなくて…(何で急に。というか何で私)」


「そーじゃなくて?」


「……いや、何もないです。…まぁ、宜しくね。仁王君」


「!よろしく、なり…!」



……いやぁ、懐かしいの思い出したなぁ。
本当、仁王と仲良くなったのは急だったかもしれない。
いきなり話かけられ、いきなり仲良くされたい宣言され、いきなり付きまとわれたり。
最初は勿論からかい半分で私に付きまとっているのかなーとか思ってたけど、ずっと一緒に居てみるとそうじゃないのかも、と思ってきた。
………多分。

仁王は詐欺師とも呼ばれているし、ぶっちゃけ私はその演技に今も騙されている可能性もある。
でもその理由が分からないし、逆にからかい半分でこんな長く一緒に居られないと思う。
でも、一つだけわかることは、



「(仁王に本気になっちゃ駄目ってことだけ)」



未だに私に抱きついたままの仁王を見る。
何となく、幸せそうに見えるのは多分私の気のせいだと思う。
もし、それさえも詐欺だったら……。
なーんて、考えるなんてらしくない。

でも、こんな日が毎日続けばいいのに。

そんなことを思っている私はもう詐欺師に落ちたんだな、と嘲笑。
結局は私も詐欺にやられる可哀想な子なんだ。
仁王が私を騙しているだなんて何となく有り得ないって言い切れるけど、仁王の言動、行動全てが詐欺ではありませんように、と願ってみる。



キーンコーンカーンコーン
(仁王、チャイム鳴ったよ)
(………ん)
(……仁王)
(離れとーない)
(授業だから。じゃあまたね)
(…名前っ!)
(……………先生来るまでだよ)
(っ!ありがとーの)
(…ん(まだまだ私も甘いなぁ))



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