時間の問題


――確かに。俺達は幼なじみで、あいつは俺に懐いてた。あの頃からあいつはドSの片鱗を見え隠れというかモロに発揮(主に土方に)させていたが、なぜだか俺とミツハさんにだけは子犬のようにじゃれつくのだ。特に子供好きでない俺でも、可愛い生き物からあからさまに懐かれて嫌な気はしない。ひょこひょこ後ろを付いて来るあいつを、実の弟だったり、時には息子のように感じることもある。
くりくりした目、さらさらの髪、背丈総悟は贔屓目に見なくても可愛いのに、きらきらと輝く瞳で見つめられたらもうなんか、可愛さ爆発。
俺は一人っ子だったせいか、総悟のことが可愛くて可愛くて仕方がない。でもそれはあくまで、『家族』に対しての感情だった。

「好きです名前さん。付き合ってくだせィ」

土方に向くことはないだろう真っ直ぐな眼差し。あまりに突然の告白に数度瞬く。縁側にどかりと腰を下ろし、手を後ろに付いたまま隣の総悟と見つめ合っていれば、持っていた団子がぽとりと地面に落ちた。

「団子落ちてますぜ」
「あ、ああ……?」
「あーあ勿体ねぇな。土方のクソヤローにでも食わせるか」
「いや思いっきり土付いてるし。落としたの俺だけど」
「いえいえ名前さん、これは脂質と脂肪とニコチンしか採らない土方さんへの俺なりの真心ってヤツですよ。ほら土って栄養あるらしいし」
「うん、それ人間に有効な成分じゃないから。つか言った側から団子踏むなって。やっぱただの嫌がらせじゃねーか」
「はーあ、この世の中には生臭いゴミ箱漁ったり貧相な顔付きで物乞いしながらそれでも泥だらけで生きてくやつもいるっていうのに。ちょっとの土と足跡が着いた団子なんて贅沢な食事じゃねーですか」
「本音は」
「地面這って悔しそうに俺を見上げながら泥付き俺の足跡付きの汚ねー団子惨めに舐めてればいい死ね土方」
「なに?総悟には土方が犬にでも見えてんの?」
「人には言っていいことと悪いことがあるんですぜ、名前さん。謝ってくだせェ。犬に」
「お前は一度人に言っていいことと悪いことのラインを見つめ直した方がいいな」
「それで、どうなんですか?」
「なにが?」
「名前さんのことが好きです。名前さんは俺のこと、どう思ってますか」

じり、と体を寄せてくる総悟。どこか必死さの滲む顔から目を離して、空に向かって溜息を吐いた。困った。俺も鈍感じゃない。総悟の「好き」の意味は分かっているつもりだ。

というのも、実は俺総悟の気持ち察してたんだよなぁ、なんとなくだけど。

いやだって、不意打ちで撫でるとすぐ赤面するわいつも風呂の時間帯ずらすわ俺が彼女つくったら明らか嫉妬するわ。お前まさか今まで隠してたつもりじゃないだろ?って言いたい。総悟は俺とミツバにだけは一生嘘が付けないかもな。
そういう訳だから、今更そんな不安そうな顔されてもね。俺はずっと知っててこの関係を続けてきたんだから。

空から視線を戻せば、総悟のにこやかな笑顔が目に入った。え、なにそれ。不気味なんだけど。

「……総悟、申し訳ないけど「はい?」

「総悟、ごめ「何か言いました?」

「ごめ「すいやせん。よく聞こえないもんで」

おいコラいい笑顔だな。お前のそんな顔久しぶりに見たわ。

「総悟」
「なんですかィ?」
「お前は、このままじゃ嫌ってことか」
「嫌じゃありませんよ」

きっぱりと首を振ったあと、総悟は俯いた。反射的にその頭へと手を伸ばしかけ、「ただ、耐えきれなかっただけで」と、珍しく自嘲の響きを含んだそれを聞いた途端、心臓におもりを勢いよく落とされるような感覚に襲われる。おもりに名を付けるならば、罪悪感、という言葉がぴったりだろう。自身の保護のため事実から目を背け続けることで、俺は総悟を苦しめのだ。
だからと言って、向き合ってもどうにもならないことではあるけれど。

重くなった体。伸ばした手は重力に従うまま床へ落ちた。総悟が顔を上げる。瞳は揺れてなんかいなかった。それもそうだ、彼は一度決めたらその覚悟を曲げる男ではない。

「名前さん、俺はあんたに告白しました。もう弟みたいには接せないでしょう?」
「……いや。お前の気持ちに、俺は前から気付いてたよ」

総悟が息を呑んだのがわかった。いや逆に聞くけど、あれだけ熱烈な視線を送られて勘違いしない奴がいるのか。俺はどれだけ鈍感だと思われていたのだろうか。俺は総悟のことなら1番知っている自信があるのに。弟的な意味で。

「一体いつから……」
「確信を持ったのは、俺が2人目の彼女連れてきたときかな」
「……知ってて、あの態度ですかィ」
「腹にどんなモン抱えてたって総悟は総悟だろ。嫌いになるわけねぇよ」

だから不安そうな顔すんなって。自他共に認めるブラコンの俺が総悟を避けられるわけないだろ。
というのが本心なのだが表面消毒して良い兄らしく言ってのければ、頬を真っ赤に染め下を向いた総悟に思わず笑いが零れた。かわいい。

いじらしすぎて総悟らしくないな、なんて思いながら形の良い頭を優しく撫でる。すると、顔を伏せていた総悟が俺の手を掴んだ。驚く間もなく総悟が顔を上げれば、その瞳は少しだけ潤んでいて。

「じゃあ、期待しててもいいんですかィ」
「期待はするなよ。応えてやれるかわからないし」
「わかりました。頑張りやす」
「んー……?」

日本語通じてるかな?

「名前さん。嫌いにならないってことは、好きってことですよね」
「ん、まあ……」
「じゃあ俺たち両思いですね」
「んん??」

いや、俺も総悟のこと好きだけれども。そういう意味じゃないっていうか。てか総悟グイグイ来すぎだろ。さっきまでのしおらしさはどこ行ったんだよ。

まあ総悟が楽しそうだからいいか、という結論に達した俺を傍目に、当人はしれっと「替えの団子取ってきやす」なんて言って席を立った。ありがたいけどお前……こう、なんか他にないのかよ。
なんだか脱力しきってしまって、ごろりと縁側に寝転がった。そんでもって大きく溜息。ああ、困った。本当に困った。

あの調子なら、総悟はこれからワイルドスピードで猛アタックしてくるだろう。俺はそれを避けなければならない。もうあいつに関わりたくない。構わないでほしい。話しかけないでほしい。だって俺には、

――自分がコロッと総悟に落ちる未来しか見えないのだから。

言っておくが俺の弟(仮)はかわいい。超弩級にかわいい。飲み会の席は必ず隣をキープしてるし、褒めると架空の尻尾がぶんぶんして見えるし、さっきの告白だって無表情に見えてずっと耳が真っ赤だった。
下世話な話だが、抱くか抱かれるか……年齢的にも性格的にも経験的にもたぶん俺が上なんだろうが、そういうことを考えてもまったく嫌じゃない。欲情はしていないが抱けないわけでもない。だってあの顔だぞ。キューティーフェイスだぞ。あの天女の生まれ変わりみたいな顔でおねだりなんかされてみろ、抱くだろ普通。

総悟は俺が好きで、俺もかわいい恋人ができて。幸せだと思う。今のままで充分重症だし、総悟の魅力にずぶずぶ浸かってしまうのに忌避感はない。わざわざ彼を遠ざける必要はないはずだ。

「でもなー……」

総悟はまだ18歳、未成年。それに真選組の一番隊隊長って大事な役職を担っている。
確かに男として総悟は魅力的だ。でも幼なじみとして、総悟の将来を心配してもいいだろ?


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