亡国のユダ【海図37】
「シン。」
一足先に船に戻ってきていたフェイタンはシンファの姿を見つけてすぐに声を掛ける。
「フェイ、早いな。」
「マチも戻てきてるね。それより、クカンユ王国の話聞いたか?」
シンファは船に乗り込みながら
「ああ、銃弾ショップの店主から聞いた。またアタシらを探し始めたんだろ?」
と答えた。
どうやらその話自体はシンファも聞いたようだ。
船に戻った後、マチ達にも聞いてみたところ、彼女も商店街でその話は聞いたらしい。
シンファが海賊であることももう既に周知の事実。やはり海上を主に捜索されることは間違いないだろう。
「すぐにカモメ便で船長とマソに知らせる。」
シンファも伝える事を考えていたようだ。
銃弾を船内に運び込むとすぐにカモメを呼び寄せた。
「シンも聞いてるかわからないけど、指揮を執てるの第3王子らしいね。」
「えっ!?そうなの?それは聞いてねぇ。あいつ、やっぱり頭角現してきたか……」
「シンも感じてたか?」
フェイタンが聞くとシンファは頷いた。
シンファはフェイタンのような野生的な直感ではなく、まだ王宮で帝王学などを学んでいた頃、本来帝王学は長男が主に学べばよいものだが、長男は病死したため次男が学ぶ事になった。
その後、シンファが生まれ、王が溺愛するあまり次男と机を並べて帝王学を学んでいた。
そんな中、ほぼ確実に王位とは関係ないと思われる3男も同じように机を並べていたが、彼はあまり真面目に勉強していなかったし、王妃たちもそれで構わない、という風だった。
ただ、そんな自由な態度で過ごしていた彼だったが、頭が良く、学んだ事はほとんどすぐに吸収していたのだという。
筆を取る事も無く次男より遥かに覚えていたのだ。
「あいつは多分すげぇ頭がいいんだ。確かに王位とは関係ないのかも知れねぇ、けど、歴史を見たって強国と言われる国には必ずトップの隣には懐刀ともいえるブレーンがいるだろ?」
「ああ、そうね。クモでいうシャルナークのような感じね。」
「そう。あいつにはその才能があったんだ。」
体力や統率力は次男、知能は3男に。そういう絵がシンファの頭には浮かんでいた。
「クカンユ王国の旧字にも明るかたしな。」
「あいつは自分のポジションを理解していたんだ。物心つくよりずっと前のガキの頃からな。そういう奴が1番おっかねぇ。」
シンファの言葉にフェイタンも頷いた。とはいえ
「あいつ念能力は使えないね。早めに殺せば危険は少ないね。」
と言った。シンファは
「そうだな。確かに。けどあいつの本当の考えがわからない内は手はださねぇ。別にアタシは王国を滅ぼしたいわけじゃねぇし、父親がアタシを殺すとも思えねぇ。」
あんな形で国を出ようとも父親がシンファ殺害を指示するとはとても思えなかった。
「わかた。殺してほしい時はいつでも言うね。ワタシが殺る。」
「ああ、サンキュー。まあでももうアタシもお尋ね者だからな。アタシが殺ってもいいんだ。」
シンファはそう言うが、シンファが殺生を好まない事は知っている。ほかに殺せる人間が身近にいるのなら、何も彼女が手を汚す事は無いだろう。[ 292/360 ][前へ] [次へ]
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