言葉が欲しいの
「ねえ仁王ー」
「んー」
「もし私が別れようって言ったらどうする?」
煎餅を食べながら雑誌を読んでいた手が止まる。この世から音が消えたかのように静まり返る。
「なんじゃ、別れたいんか?」
「んーん、なんとなく」
だってほら、暇だから、とこともなげに言う。悪気のない様子に、仁王もしらっと答える。
「殺す」
「……ぶっそうだね」
てっきり地の果てまで追いかけるとか言ってくれると思ったのに。
「じゃーさ、もし私が浮気してたら?」
殺されるのが恐くて別れようって言えなかった場合。
「紫帆」
親指を立てて、ベッドに寝転んでいた私の首を掴む。
「何て答えたら、お前は満足なんじゃ? まさか『お前は誰にも渡さない』なんて陳腐な言葉が欲しいわけでもないじゃろ?」
「その、まさかだったりするんだけど」
「……」
「……」
お前さんは読めん、と呟く。
「で、誕生日プレゼント何がほしい?」
「……紫帆がいい」
渋々ながらも、私の欲しい答えをくれた仁王。指の力はすっかり抜けて、代わりに私が彼を力いっぱい抱きしめる。私だって冬は寒いのだ。
END
20121128
気付けばもうすぐ仁王の誕生日。
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