先輩には敵わない


「赤也可愛いー」
先輩はいつもそう言う。部長に怒られるときも、練習試合を見ているときも、スポーツドリンクを飲んでいるときも。なのに。



「真田君かっこいいなー」

なんで俺は可愛いで副部長はかっこいいんだよ。


「副部長のどこがかっこいーんだか、わっかんねーなー」
言うつもりはなかったけど、つい口に出してしまうのが俺の悪い癖。
「あれ、赤也って真田君嫌いなの?
先輩の中で一番仲いいと思ってたのに」

「や、やめてくださいよ!!」
確かに強さは憧れるが、すぐ殴るし怒鳴るしうざいっすよ、そう呟いたら怒られた。といってもコツンとでこを叩くだけで全然怖くないんだけど。
くそ、なんで副部長なんか庇うんだ。






「……赤也が凄い目でにらんでくるんだが」
十分休憩! という待ちに待った幸村の声に部員は一斉に日陰に駆け込んだり水を飲んだりする。そんな中、汗を拭きながら真田がベンチにやってきた。すかさずスポーツドリンクを手渡す。
「あはは、ごめん。私が真田君かっこいいって言ったらああなっちゃった」
「なぬ?!」
「麻倉、赤也をあまりからかうな。試合に支障が出る」
元からベンチに座っていた柳は涼しげに笑う。
「うん、それより真田君そんなにてれないでよー」
「む、むう……」





「あーかや!」
赤也はレギュラー陣に加わらないで一人木にもたれかかっていた。考え事をしていたのかこちらには気づかなかったようだ。
「うわ! 脅かさないでくださいよ」
「ごめんごめん。ほら、水分補給はちゃんとして」
ひんやり冷たいボトルを頬に当てれば「冷てっ」と言いながらも素直に受け取る。
「今日の練習凄かったね。真田君も真剣だったし」
「俺、どうだったっすか?」
「うーん、良かったよー」

かっこいい、その一言を言ってくれない。本心なのかどうなのか、赤也は冗談めかして声を荒げる。
「紫帆先輩は、老け専なんすね!!
オッサン好きなんか、趣味悪いー」

先輩は怒るだろう。誰かの悪口を聞くのも嫌な人だ。
しかし実際はにこにこしたままだ。


「そうかなー、赤也ってオッサンなの?
そうは見えないけど」
「え?」
「だって、私が好きなのってオッサンなんでしょ?
私は赤也が好きなんだけど」



おっかしーなー。赤也は14歳に見えるんだけどなー。
とぼける紫帆に良い返答も思いつけず、気付けば「休憩は終わっているぞ」と副部長に怒られていた。



20121004


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