曲折トライアングル


高校一年生になってようやく落ち着いてきたところに梅雨が入り込み、気分が全く盛り上がらない。とはいうものの中学からエスカレート式に上がったのだから、さほど新学期のドキドキ感もなかったのだが。生徒の半分は顔を知っていて、友達もだいたいそのままいる。それに、彼らも。




「ちーっす。私も混ぜて」
昼休みだというのに静かな一角に私はずかずかと入り込み、返事もまたずに座り込む。そこにいた二人は嫌そうな素振りを見せず、黙ってスペースを作った。何か言ってくれると尚良いのだが、それをこの男たちに求めるのは流石に酷か。

「どうした、いつものメンバーは。はぶられたのか?」
そう真面目くさって尋ねるのは真田。これが幸村ならまあ冗談で返すところだが、この男に「うん」などというと私の友人はもれなく締められるため正直に言う。
「あの子放送委員なんだけど、今日当番だから放送室で食べるってさ」
「では今後もたまにこういう事態が起こるというわけだな」
今喋ったのは真田の親友と言ってもいいのだろうか、柳蓮二。ここまで名前を出せば次は幸村と大抵の者なら想像するだろうが、このつまらない校則に従うと昼食はクラスメイトと教室で基本食べなければならない。つまりクラスの違う幸村がここに来ることは滅多にない。




三強は同じ高校に通った。
私は少し意外だと思った。
勿論三人共テニスは上手いが、特に柳は将来を見据えもっとレベルの高い高校にも余裕で行くのかと思ったのだ。






「ねーねー、近くに新しいアイス屋さん出来たんだって、一緒に行こうよ」
私はテニスのことに一切口を出さず、また異性として見ないことで三人との仲を崩さないでこれた。だから真田も色気のない対応ばかりとる。つまらない。
「買い食いは関心せんな」
「いいんだよ、高校生は禁止されてはないし」
「だが……」

真田が渋る理由などわかりきっている。アイスが口に入れたくないほど嫌いなのではなく、また私が嫌いなわけでもない。



「部活、あるんでしょー。普通に言えばいいのに」
まあ、分かってて聞く私も相当嫌な奴なんだけど。
「……すまん」
「いいって」
言いながら私は真田の弁当からウインナーを素早く奪った。我ながら見事な箸捌きだ。

この会話を聞いていたらわかるだろうが、私がいると柳の口数は少ない。普段そこまで無口な印象はないのだけれど。柳は私の前で極力論理ぶった口ぶりをしない。私とて彼に悪意がないのはわかっているが、感情的な女としてはどうしてもすまし顔が腹ただしいのだ。彼は私の考えをまるでお見通しなのに、私は彼の思考が全くわからないなんて、なんて不公平なのだろう。

食べ終わる頃には放送も終わり、まもなく友人が戻ってきたため私は二人に別れを告げた。
















「麻倉」
あれから掃除の時間、柳に呼び止められる。珍しい。私は三強の中で一番柳と縁が薄い。嫌いではないが、上記の理由から話しかけずらい。話しかけずらさはパッと見真田も良いレベルだが、真田はおちょくったら赤くなったり怒鳴ったりと人間らしい反応をしてくれる。

「何? 掃除さぼらないでよ」
終わらなかったら放課後もする羽目になるんだから。

「麻倉は、弦一郎のことが好きなのか?」
「は……………………?」



ガタン



私の手から箒がするりと落ちる。
「……なんで?」
柳は顔色一つ変えず、冗談かどうかわからない。返事もない。
「アンタの研究の一環っていうのなら、答えない」
「違う。それは違う」
これは即答。なら私もこれ以上躊躇する理由もなく、答える。
「ふーん……別に好きだけど」

確かに真田はオッサンだし歌声凄いけど、悪い奴ではない。その昔真田の悪口を言っていた不良Aを幸村と一緒に締めたことを思い出した。当時柳は女の子みたいで暴力に加わらなかったけど、今だったら多分精神的に追い詰めてくれるだろう。あらやだ懐かしい。

「そうか……」
私の答えで、柳の顔が幾分か曇る。
「言っとくけど、柳のことも好きよ。それに幸村だって」
そう、私は三強を尊敬している。ただのテニス馬鹿だと思うこともある。でも、やっぱり凄い。こんな奴らが三人も集まるだなんて、立海は幸運だ。

「なんだって?」
見ると柳は拍子抜けした声と顔をして、今ここにカメラがあったら確実に私は構えるだろう。中一から知っているが、こんな表情は生まれてはじめてだ。
「いや、だから、私はあんたら三人組って凄くいいと思う。テニス三昧で私と遊んでくれないのがたまに傷だけど」

この一言で、今度は柳が笑いだすではないか。嫌だ怖い、地球は今日で破滅するのだろうか。しかも掃除の時間終わってるし。放課後掃除決定だぞこのやろう。部活を理由に帰ったら許さん。

「全く、これだから麻倉はわからない」
「わからない? 私が?」
そんなはずはない。柳の方がよっぽど思考が読めない。現に今だって。
「俺はそれなりにストレートで勝負したつもりなんだが、上手く跳ね返したな」
「ストレート? わかんないって、柳は頭が良いから」




私が柳と出会ったのは、中学に入って真田経由だった。真田と幸村は小学生のときに出会っていて、真田と幼馴染な私は幸村にもそのとき会っていた。つまり、三強で一番最後に会ったのは柳だ。第一印象はおかっぱ。可愛いけどかっこよくはない。クラスが違うし私はテニス部じゃないし、ほとんど関わりがなくて気が付いたらスラッと背が伸びていて髪も切っていた。昔は頭の中がよくわからなかったけど、容姿まで私の記憶と結びつかず、本当わけがわからない。




「俺は麻倉が好きだ。お前のような友人感覚ではなく、それ以上に」
「………………本当、わけがわからない」

私の前で無口な男が、むしろ嫌っているのかというような男が、私を好きだなんて、誰が想像できようか。こんな麻痺した脳じゃあ、わかんなくてオーケーしてしまいそうだ。




「じゃあ、一緒にアイス食べに行ってよ」
「わかった、近いうちにな」
「嫌、今日じゃないと許さない」
「……わかった」
「…………部活は?」
「掃除が長引いたと言っておく。一年だから上に何か言われるだろうが、まあ大丈夫だろう。精市がいる」





うわ、幸村こわい。
なんか、柳で良かったと思えてしまった。


END
2012/06/14
初柳夢。アンケート「真田と柳で三角関係」からです。これで精いっぱいでした。……すみません。


- 87 -



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -